相続法が40年ぶりに改正

高齢化社会の実情を反映させるため、相続法が40年ぶりに改正されました。
今回の改正では、残された配偶者の生活保障に重点を置き、配偶者居住権の創設や、遺産分割における配偶者保護の規定が新設されました。

主な改正ポイントは下記の6つ。

  1. 生存配偶者の生活を保障する制度の創設(配偶者居住権の創設と遺産分割における配偶者保護の規定)
  2. 預貯金の仮払い制度の創設
  3. 自筆証書遺言の要式緩和と保管制度の創設
  4. 遺留分減殺請求の効力変更
  5. 権利義務の承継に関する変更
  6. 相続人以外の親族の貢献を認める制度の創設

生存配偶者の生活を保障する制度の創設

これまでは、自宅の所有者であった配偶者が死亡した場合、残された配偶者が引き続き住み慣れた自宅に居住することを望んでも、当然には認められていませんでした。
また配偶者の一方が他方の配偶者に自宅を遺贈又は贈与した場合であっても、その遺贈や贈与は相続分の前渡し(特別受益)とされ、相続財産に戻したうえで各相続人の相続分が算定されることになります。
そのため、自宅以外に財産が残されていないケースでは、遺産分割の過程で自宅が処分され、配偶者が住居を失うことも少なくはなく、また住居を取得できたとしても、他の相続人に代償金を支払ったり、他の財産を相続できなかったりで、今後の生活資金に困窮するといった不都合が生じがちです。

そこで、相続法の改正では、残された配偶者の生活保護の観点から配偶者を優遇する措置がとられました。
具体的には、最低でも相続開始から6か月間は配偶者の居住権を確保する「配偶者短期居住権」と、残された配偶者が亡くなるまでの間の居住権を保障する「配偶者居住権」という長短2つの配偶者居住権が創設。
また、婚姻期間が20年以上の夫婦間で行われた居住不動産(建物又は敷地)の遺贈や贈与については、相続財産に持ち戻す必要がないことが新たに規定されました。持ち戻しが免除されれば生存配偶者は自宅以外の財産を取得することも可能となることから、実質的に配偶者の相続分が増えることになります。

  1. 生存配偶者の居住を短期的に保護する「配偶者短期居住権」と、終生にわたり確保する「配偶者居住権」が新設
  2. 婚姻期間20年以上の夫婦間における居住不動産の遺贈・贈与については、相続財産への持ち戻しが免除

配偶者保護の制度の詳細についてはこちら

預貯金の仮払い制度の創設

従来、預貯金などの可分債権は遺産分割の対象とはならず、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されるとされてきましたが、平成28年12月19日、最高裁は「預貯金は遺産分割の対象となる」と判示、従来の見解を大きく転回させる判例変更を行いました。
これにより、預貯金は遺産分割が成立するまでは相続人全員の共有となり、一部の相続人が単独で預貯金の払い戻しを請求することは難しくなります。しかし、遺産分割が成立するまで預貯金が一切引きだせないとすると残された相続人に困難を強いることにもなりかねません。
そこで改正法では、遺産分割前であっても、葬儀費用や当面の生活費を引きだせる仕組みとして「預貯金の仮払い制度」を新設。
仮払い制度を利用して引き出せる預貯金の額は、相続人一人につき「預貯金の額×1/3×当該相続人の法定相続分」が上限。直接、銀行の窓口で払い戻しを受けることができます。
また家庭裁判所の保全処分を利用する方法も検討されています。

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自筆証書遺言の方式緩和と保管制度の創設

自筆証書遺言はいつでもどこでも簡単に作成できる手軽さがある一方で、容易に偽造・変造されるおそれがあるため、全文、日付を必ず自分で書き、署名押印することが義務付けられていることから要件が厳しすぎるとの指摘がありました。
改正法では、財産目録を別紙として添付する場合は自書は不要とし、パソコンでの入力や代筆も可能とするなど自筆要件が緩和されました。

また、作成した自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度も新設されました。
法務局で保管してもらった自筆証書遺言については家庭裁判所の検認手続きも不要となるため、改正後は自筆証書遺言の利便性が高まると考えられています。

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遺留分減殺請求の効力変更

兄弟姉妹を除く相続人には、最低限度相続できる取り分が認められています。これを遺留分といい、改正前は、遺留分を侵害する遺贈や贈与があった場合は、遺留分減殺請求権を行使することで、最低限の相続分を確保することができました。
遺留分減殺請求権は、遺留分を侵害された相続人が、遺留分を侵害する遺贈や贈与を受けた受遺者・受贈者に対し、「遺留分を返せ」という意思表示を行うことで行使されます。
そして、遺留分減殺請求権が行使されれば、遺贈や贈与は遺留分を侵害する限度で効力を失い、減殺された財産は遺留分を限度として、遺留分権利者の所有物となります。これを物権的効力といいますが、不動産などの分けにくい財産を対象に遺留分減殺請求権が行使されれば、受遺者・受贈者とともに遺留分権利者との共有関係が生じてしまうことになります。そのため権利関係が複雑となり、ときとして共有物の分割を求めて訴訟が提起されることもあることから、物権的効力を問題視する意見がありました。

そこで改正法では、遺留分減殺請求権を、遺留分侵害額請求権に改め、物権的効力を否定し、請求者は現物返還ではなく、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できるにとどまるとしています。
つまり、改正法下では、遺留分を侵害する遺贈や贈与の対象財産が不動産であったとしても、遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害する受遺者・受贈者に対し、不動産の所有権ではなく、侵害額に相当する金銭の支払いを請求していくことになるというわけです。
なお、請求を受けた受遺者・受贈者がすぐに現金を用意できない場合に備えて改正法では、裁判所の判断で支払い期限の猶予を受けられる仕組みづくりもされています。

権利義務の承継に関する変更

例えば、「甲不動産をAに相続させる」と遺言書にかかれていた場合、甲不動産について相続人Bが勝手に自己名義で相続登記をした後、これを第3者Cに売却したとしても、相続人Aは第3者Cに対して、登記をしていなくても、甲不動産は自分のものだと主張できます。一方、先の事例で遺産分割によりAが甲不動産を取得することが決まった場合では、Aは第3者に対して登記をしなければ、自分が甲不動産の所有者であることを主張できません(ただし、法定相続分については登記なくしても主張できます)。このように、法定相続分を超える財産を取得した場合、その取得を第3者に主張するために対抗要件(不動産であれば登記)を要するか否かについては、改正前は、取得の仕方によって取り扱いが異なっていました。改正法では、取得方法のいかんを問わず、一律に、法定相続分を超える相続分の取得については対抗要件を具備しなければ第3者に対抗できないことが規律されました。
また、相続債務についても法定相続分を超えて、特定の相続人が債務を承継した場合であっても、債権者の承諾がない限り、債権者は各相続人に対し、法定相続分に応じて債務の返済を請求できることが明文で規定されています。

相続人以外の親族の貢献を認める制度の創設

例えば、義理の父親の介護を献身的に行ったとしても、改正前は、寄与分は相続人にしか認められてはおらず、義理の父親の相続において相続人の妻には寄与分は考慮されず、不公平な結果になっていました。
そこで改正法では、相続人以外の親族が無償で家業を手伝い、または療養看護に努め、被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合は、その貢献を「特別の寄与」として、相続人に対し金銭(特別寄与料)を請求できることになります。

特別寄与料の請求制度の詳細についてはこちら