相続した家を売却する場合
不動産を相続しても、所有権の名義人が亡くなられた方のままでは、その不動産を売却することはできません。相続した不動産を売却するには、相続登記により所有権の名義人を相続人の方へ変更する必要があります。
このとき、相続人の誰に名義を変更するかによって、その後課税される譲渡所得税を大幅に節約できる可能性があります。
現行法上、相続された不動産を売却する際に適用される譲渡所得税の軽減措置には、①同居家族が相続した場合に適用される「居住用財産を譲渡した場合の3000万円控除」と、②空き家の売却に適用される「空き家の譲渡所得の3000万円特別控除」の二種類があります。適用できる特例がある場合は、適用要件を満たす人名義で相続登記をするのが得策です。
相続不動産を売却すると譲渡所得税が課税されます。
相続した不動産を売却すると、譲渡所得税が課税されることになります。この譲渡所得税は、不動産を売却することで得られた利益(譲渡益)に対して課税される所得税や住民税のことで、売却しても利益が発生しなければ課税されることはありません。
譲渡所得税は売却代金から、不動産を購入したときの代金(取得費)と、売却するときにかかった費用(譲渡費)を差引いた金額(譲渡益)について課税され、取得費が不明な場合は、原則として売却価額の5%を取得費とする方法が使われます(これを概算取得費といいます)。
ただし、以下の場合には、3000万円の特別控除が受けられるかもしれません。
相続により抵当権の債務者に変更が生じた場合、抵当権の変更登記を申請する必要があります。その前提として、抵当権が設定された不動産につき、被相続人から相続人への所有権移転登記(相続登記)が必要となります。
- 同居家族が自宅を相続した後に売却する場合
- 相続後空き家となった実家を3年以内に売却する場合
同居家族が自宅を相続した後に売却する場合
被相続人と同居していた家族が、自宅を相続した後に、売却する場合は、居住用財産の特例が適用され、譲渡所得から最高3000万円までが控除されます。
例えば、父名義の実家に父と一緒に暮らしていた母が、父の死を機に実家を売却する場合がこれに該当します。
この場合は、被相続人である父から母に名義変更した後、実家を売却します。
実家の売却により得られる利益(譲渡益)が3000万円だった場合、通常は600万円が譲渡所得税として課税されてしまうのに対し、この特例の適用により非課税となるので大幅に経費を節減することができます。
実家の売却代金は、他の相続人と分配するか、他の相続人の同意があれば母が単独で取得することもできます。
相続後に空き家となった実家を3年以内に売却する場合
被相続人が居住していた実家を売却する場合、下記の要件を満たせば、3000万円の特別控除が受けられます。
①売却期限
30000万円の特別控除の適用対象となるのは、平成25年1月2日以降に発生した相続で、相続開始の日から3年を経過する日の年末(3年を経過する日の年末が平成32年以降の場合は、特例実施期間の平成31年12月31日までに短縮されます)までに売却することが必要となります。
つまり特例が適用される期間は、相続発生時期によって異なり、平成26年1月2日に相続が発生した場合は平成29年12月31日まで、平成29年1月2日以降の相続であれば平成31年12月31日までに売却すれば、特例の適用を受けることができます。
②空き家の要件
売却の対象となる家屋は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋で、被相続人が1人暮らししていたものに限定されます。
マンションは適用の対象にはならず、被相続人が老人ホームに入居し、住所を移していた場合や賃借人がいた場合なども適用から外されます。
③売却額などの要件
売却に際しては、耐震リフォームをするか、家屋を取り壊してから譲渡する必要があります。また、譲渡価額が1億円を超えないことも、特例の適用を受けるための要件となっています。
空き家を3年以内に売却するときは共有名義で相続すると特別控除の額が増えます。
相続不動産を相続人全員の共有とすることは、デメリットが多く、後のトラブル発生の原因ともなるため、お勧めはしていませんが、特例の適用要件を満たしていれば、相続不動産を相続人全員の共有とすることに大きなメリットがあります。
この特例は適用対象者1人あたり3000万円までの控除を受けることができるため、共有で相続すれば、それだけ控除総額が増えるという利点があります。
例えば一人で相続した場合は3000万円までの控除しか受けられないのに対し、二人で相続すれば、6000万円までが特別控除の額となります。そのため、住む予定のない古い一軒家を相続した場合は、相続人全員の名義で相続登記を申請するようにしましょう。