団体信用生命保険に加入しておらず住宅ローンが残る場合
住宅ローンを利用してマイホームを購入する場合、金融機関の多くは、借り入れ条件として団体信用保険の加入を義務付けています。しかし、一部の金融機関や、住宅金融支援機構の「フラット35」では、団体信用保険は任意加入となっています。そのため団体信用保険に加入していなかった場合、住宅ローンの残額は、相続放棄をしない限り、相続人の方に返済する義務が発生します。
(1)相続放棄をする
不動産以外にこれといった財産がなく、住宅ローンを支払うことが困難な場合には、相続放棄を検討することになります。 相続放棄は、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続きを行う必要があります。相続放棄をすれば、住宅ローンなどの債務だけでなく、不動産や預貯金などの資産も引き継ぐことができなくなります。
(2)任意売却をする
他に遺産がある場合は、任意売却を検討することができます。
任意売却とは、住宅ローンを残したまま、不動産を売却することです。通常の不動産の売却手続きとあまり変わりはありませんが、任意売却では、住宅資金を貸し付けている金融機関などの債権者から同意を得る必要があります。また、売却代金だけでは、住宅ローンを完済させることができない場合は、債務が残ることになりますので、債権者からの同意が得られるかどうか、残った債務を返済できるかどうかといったことも含めて、任意売却を検討する必要があります。
(3)住宅ローンを返済しながら、実家に住み続ける
不動産の価値よりも住宅ローンの残額が少ない場合や、住宅ローンの返済が可能な場合には、住宅ローンを返済しながら、実家に住み続けることもできます。
このとき、実家を取得した特定の相続人だけが、住宅ローンを引き受けることは可能でしょうか。
原則として相続人のうちの一人が債務を引き継ぐ遺産分割協議が成立しても、相続人間での取り決めとしては有効ですが、それを債権者に主張することはできません。借金等の債務は、相続開始と同時に遺産分割をすることなく、法定相続分に応じて当然に承継されることになり,相続人が自由に債務の負担割合を決定できるとすれば、返済能力のない者に債務全額を引き受けさせるような事態も起こりかねず、債権者の権利が害されるからです。 ただし、債権者が承諾すれば、特定の相続人が債務の全額を引き受けることも可能です。
住宅ローンを返済しながら、実家に住み続けることを選択した場合は、実家の所有権を被相続員から相続人へ名義変更するための相続登記を行ったうえで、住宅ローンを担保するために設定された抵当権の債務者を被相続人から相続人へ変更する登記が必要となります。
相続による債務者の変更登記
相続により抵当権の債務者に変更が生じた場合、抵当権の変更登記を申請する必要があります。その前提として、抵当権が設定された不動産につき、被相続人から相続人への所有権移転登記(相続登記)が必要となります。
- 被相続人から相続人への所有権移転登記(相続登記)
- 債務者を被相続人から相続人へ変更する抵当権変更登記
相続人のうちの一人を債務者とする抵当権変更登記には以下の2パターンがあります。
1.相続人のうちの一人が債務を承継する旨の遺産分割協議が成立し、債権者がこれを承諾した場合
登記原因を相続として、被相続人から債務を引き継ぐ相続人へ債務者を変更します。
登記の目的 抵当権変更
原因 平成○年○月○日相続
変更後の事項 債務者 債務を引き継ぐ相続人の氏名・住所
2.債務についての遺産分割協議がなく、債権者の同意を得て、相続人のうちの一人が他の相続人の債務を引き受ける契約(免責的債務引受契約)が成立した場合
まず、相続人全員を債務者とする変更登記をした上で、債務引受を原因として相続人のうちの一人を債務者とする変更登記を申請する必要があります。
(相続人:子どもA,B,C、債務を引き継ぐのがAの場合)
登記の目的 抵当権の変更
原因 平成○年○月○日相続
変更後の事項 債務者A,B,C
登記の目的 抵当権の変更
原因 平成○年○月○日B,Cの免責的債務引受
変更後の事項 債務者A