遺産分割協議には相続全員の参加が必要です。
「誰が」「何を」相続するかを決める相続人全員による話し合いのことを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議は相続人全員の参加によって行われなければなりません。一人でも欠けた場合は無効となりますので、相続人の調査は慎重に行う必要があります。
行方不明者や未成年者、認知症の方などがいる場合は、不在者財産管理人や特別代理人、後見人など家庭裁判所で選任された代理人に参加してもらう必要があります。
遺産分割協議までの手順
遺産分割協議を有効に成立させるために、分割協議に先立ち、①相続人の確定、②相続財産の確定、および③各相続人の具体的相続分の確定が必要となります。
遺産分割協議は相続人全員一致により成立します。
「遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ、無効となるため、相続人の中に未成年者や認知症の方などがいる場合は、代理人の選任が必要となります。
>未成年者がいる場合
未成年者が法律行為をするには、法定代理人(通常は親権者)の同意が必要です。しかし、相続において被相続人の配偶者と子は共に利害が対立する関係にあります。そのため親権者が未成年の子を代理して遺産分割協議を行うことは利益相反行為として許されず、子のために特別代理人を選任するよう家庭裁判所へ申立てなければなりません。
未成年の子が複数いる場合は、それぞれにつき特別代理人を選任する必要があります。
認知症の方がいる場合
相続人の中に、認知症や知的障がい、精神障がい等により、自分の行為や、その行為の結果がどのような意味を持つのか判断できない方がいる場合、家庭裁判所に後見開始の審判を申立てて、成年後見人を選任してもらい、その成年後見人と遺産分割協議をする必要があります。
この後見には、保護が必要な程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの制度があり、判断能力が残存する「保佐」「補助」の場合に保佐人や補助人が遺産分割を代理するには、保佐・補助開始の審判とは別に遺産分割の代理権を付与する旨の審判が必要となります。また、被補助人本人が遺産分割に参加する場合は、補助人の同意が必要となることから、補助開始の審判とは別に補助人に同意権を付与する旨の審判を受ける必要があります。
行方不明の方の方がいる場合
共同相続人の中に行方不明の者がいる場合、他の相続人が採るべき方法として以下の2つの選択肢が考えられます。
◇生死が7年以上不明な場合
行方不明の方の生死が7年以上不明な場合は、利害関係人(失踪者の配偶者・法定相続人など)は家庭裁判所へ失踪宣告を申し立てることができます。失踪宣告がなされると生死不明となった時点から7年間の期間満了を待って死亡したものとみなされます。被相続人よりも前に、失踪者が死亡した者とみなされれば、その方に子などがいる場合には、その子が失踪者を代襲して相続人となりますので、この代襲相続人を加えて遺産分割協議を行うことになります。
◇生死が7年に満たない場合
上記以外の場合、すなわち生死不明期間が7年に満たない場合やどこかで生存しているとの噂がある場合などは、利害関係のある共同相続人が家庭裁判所に対し不在者の財産管理人の選任を請求することになり、ここで選任された財産管理人が不在者に代わって遺産分割協議に参加します。なお、財産管理人には処分権限がありませんので、分割協議を成立させるにあたり家庭裁判所の許可を得る必要があります。
胎児がいる場合
相続において胎児は既に生まれたものとみなされますので、胎児を除外した遺産分割協議は無効と解されます。そのため、胎児の出生を待って特別代理人選任の申立を行い、その代理人と遺産分割協議をするのが無難といえます。なお、緊急を要する場合は、遺産分割審判の申立をすることも可能です。
海外赴任中の方がいる場合
遠方などの事情により遺産分割協議に参加できない場合には、相続人の誰かが作成した遺産分割案を郵送し、持回り方式で遺産分割協議に代えることが認められています。持ち回りで受け取った遺産分割協議書には署名捺印し、印鑑証明書を添付しなければなりません。しかし、海外在住のため日本に住所がなく、印鑑証明書の交付を受けられない場合には、印鑑証明に代えてサイン証明(署名(および拇印)証明書)を添付すればよいとされています。
サイン証明とは、日本に住民登録をしていない海外在住者に対し、日本の印鑑証明書に代わるものとして日本での手続きのために発給されるもので、申請者の署名(および拇印)が確かに領事の面前で証明されたことを証明するものです。交付を受けるための具体的な手続きとしては、遺産分割協議書を住んでいる国の日本大使館あるいは総領事館に持参して、領事の面前で署名および拇印を捺印し、遺産分割協議書と署名(および拇印)証明書を綴り合せて割り印をします。 これを日本へ返送すれば、この遺産分割協議書で相続登記等の申請が可能となります。
包括受遺者がいる場合
遺言によって贈与を受ける人のことを受遺者と言います。この受遺者には、「財産の半分を遺贈する」といったように、相続財産を特定せず、その全部または一部の贈与を受ける「包括受遺者」と、「〇〇の不動産を遺贈する」というように財産を特定して贈与を受ける「特定受遺者」とがいます。
このうち包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を承継すると定められていることから、遺産分割協議に参加させる必要があります。包括受遺者を除外してなされた遺産分割協議は無効となりますので、注意が必要です。
相続分を譲渡した者がいる場合
相続人は、遺産分割の前であれば自己の相続分を他の相続人や、相続人以外の第三者に譲渡することができます。相続分とは、個々の相続財産の持分をいうのではなく、相続人の地位そのものをいいます。そのため相続分を譲渡すると、譲渡した人は相続人の地位を失い、逆に譲渡を受けた人は相続人の地位を承継することになるので、この者を遺産分割協議に参加させる必要があります。
相続放棄した者がいる場合
相続放棄をすると、最初から相続人ではなくなるため、遺産分割協議に参加させる必要はありません。
具体的相続分の確定
各相続人の具体的な取り分を決めるにあたって、特別受益や寄与分を考慮する必要があります。
民法に規定されている法定相続分は、遺産分割の一つの基準を与えるものですが、被相続人と相続人との間の事情や関係性を一切考慮せず、一律に定められたものです。
そのため、共同相続人のなかに、被相続人から遺贈または生前に事業の開業資金や婚礼資金・住宅資金等の援助を受けた者(特別受益者といいます)や、あるいは被相続人を献身的に介護した者、家業を手伝い財産形成に特別に貢献した者(特別寄与者といいます)等がいる場合、こうした事情を斟酌せずに法定相続分で一律に遺産分割がなされると、相続人間で不平等が生じてしまいます。
そこで、相続人間の公平を保つための制度として、特別受益の制度と、寄与分の制度が設けられています。
特別受益
被相続人から住宅資金を出してもらったり、事業の開業資金を援助してもらうなど、遺贈や生前贈与によって特別の利益を受けている相続人を特別受益者といいます。
遺贈や生前贈与は「相続財産の前渡し」とみられ、これを無視して遺産分割を行うと、特別受益者と他の相続人との間に不公平が生じてしまいます。そこで、特別受益者が受けた贈与の額を相続財産に加え(「特別受益の持戻し」といいます)、その額を基に各相続人の相続分を決めることになります。
寄与分
無給で家業を手伝い被相続人の財産の増加に寄与したり、長期間にわたって介護に努め、介護費用を節約するなど被相続人の財産の維持に貢献した相続人は、特別寄与者と呼ばれ、法定相続分に寄与・貢献度に相当する額に上乗せして受け取ることが認められています。