生前贈与は、節税対策に効果を発揮します。
相続税増税による税負担増を緩和させる方法の一つとして生前贈与に関心が高まっています。贈与税は相続税に比して高い税率が課せられているにもかかわらず、税負担を軽減する制度が充実していることから、賢く使えば贈与税がゼロに。しかも、贈与者にとっては生前に受贈者に財産を承継させることにより所有財産を減らすことができるので、その後、課税される相続税の節税対策としても有効です。
暦課税制度と相続時精算課税制度
贈与税の課税方式には、贈与を受けた年ごとに課税される暦年課税と、贈与者が亡くなった時に相続税と精算する相続時精算課税の2種類があります。
暦年課税とは、贈与を受けた人が、毎年1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた価額から、110万円の基礎控除を控除し、それを超えた贈与価額に税率をかけて贈与税を計算する一般的な課税方式です。
これに対し、所定の要件を満たした場合に累計2500万円までが特別に控除されるのが平成15年に創設された相続時精算課税です。相続時精算課税では、贈与者と受贈者に制限があり、60歳以上の祖父母・父母から20歳以上の子・孫への贈与に限定され、累計2500万円までを特別控除とし、その控除額を超える分については一律20%の贈与税がかかります。ただし、贈与者が亡くなると、贈与された財産は、相続財産に加算されて相続税を計算し、贈与時に申告した贈与税(2500万円を超える贈与価格に課税された贈与税)との差額を精算することになります。つまり、2500万円までが全額非課税となるのではなく、相続まで税金が繰り延べになる制度であり、一概に相続税の節税効果が認められるわけではありませんが、相続時に加算される贈与財産の価格は贈与時の時価で評価されることから、将来値上がりが見込まれる、もしくは収益のある物件を贈与する場合等には有効な節税対策となりえます。
暦年課税 | 相続時精算課税 | |
---|---|---|
贈与者 | 制限なし | 60歳以上の父母・祖父母 |
受贈者 | 制限なし | 20歳以上の子・孫 |
控除額 | 基礎控除(毎年)110万円 | 累計2500万円(特別控除) |
相続との関係 | 相続開始前3年以内の贈与については相続財産に加算 | 贈与した財産を贈与時の時価で相続財産に加算 |
選択 | 不要 | ・翌年の3月15日までに相続時精算課税制度を選択した旨を所轄税務署に届け出なければならない。これを怠れば通常通り、暦年課税の扱いとなる。 ・一度選択した後は暦年課税制度に変更できない |
①暦年課税の年間110万年以内の非課税枠を用いた節税対策
暦年課税の場合、1年間に受けた贈与が110万円以内なら相続税は非課税となります。例えば、親から子へ1100万円を贈与するとして、一括贈与した場合は、基礎控除額110万円を差し引いた990万円が課税対象となり、贈与税は40%の396万円となります。他方、1100万円を10回に分けて、毎年110万円を10年間贈与すると、基礎控除額内に収まるので贈与税はゼロに。加えて贈与により所有財産が1100万円減った分、将来発生する相続税が安くなり、税負担を軽減させることができます。 また、110万円以内という基礎控除の限度額はもらう側に課せられた制限であって、あげる側には何ら制約はないことから、家族単位、例えば娘・息子・孫など複数人に毎年1人につき110万円以内の贈与を繰り返せば、相続時に高い節税効果が望めます。ポイントは長期・分割贈与。早く始めて長く続けるほど、相続時の節税効果が大きくなるのが、この暦年課税の基礎控除枠を用いた対策です。
②相続開始間近の贈与
暦年課税方式では、相続開始3年以内の贈与は相続財産に加算されることから、節税対策とはならないのが原則です。もっとも相続税の課税価額に加算すべき贈与とは、相続又は遺贈(遺言による贈与)により、財産を取得した者が、相続開始前3年以内に被相続人から受けた贈与のことをいい、相続によって財産を取得していない者に対して行われた相続開始前3年以内の贈与については課税対象とはなりません。そこで、相続開始が間近であると予想される場合には、孫や嫁、娘婿や兄弟姉妹、甥、姪などが相続財産あるいは遺贈を取得せず、かつ死亡保険金の受取人に指定されていないときには、この者たちに非課税額の110万円以内を贈与すれば、有効に所有財産を減少させることができるので、節税対策になります。
夫婦間の居住用不動産の贈与(通称おしどり贈与)
相続税と同様に、贈与税にも配偶者が優遇される配偶者控除があります。ただし、贈与の場合は、居住用不動産の贈与に限定され、かつ下記の条件を満たすことが適用要件となります。
- 夫婦の婚姻期間が20年以上であること
- 国内の居住用不動産、もしくはその取得のために充てる資金であること
- 贈与を受けた翌年の3月15日までに贈与を受けた自宅、もしくは贈与された資金で取得した自宅に居住していること
- 同じ配偶者からの贈与について、過去にこの控除を受けたことがないこと
上記の要件を全て満たせば、110万円の基礎控除とは別に2000万円までが非課税となり、相続財産が多く、相続税が高額になる可能性がある場合には節税効果が期待できます。なお、この特例を受けるには贈与税の申告が必要です。
教育資金一括贈与
大型の非課税贈与として、父母・祖父母など直系尊属から30歳以下の子・孫へ教育資金を一括贈与すれば1500万円までが非課税となる教育資金一括贈与があります。適用要件さえ満たせば、1500万円までが非課税に。一度の贈与で相続財産を大幅に減らせる即効性があります。ただし平成31年3月31日までの期間限定で、30歳に達した時点で残額があれば贈与税が課税されます。
結婚・子育て資金の一括贈与
教育資金一括贈与と似たような仕組みとなるのが結婚・子育て資金の一括贈与で、父母・祖父母など直系尊属から20歳~49歳までの子・孫へ結婚・出産・子育ての資金を一括贈与すれば1000万円(結婚資金のみの場合は300万円)までが非課税となります。ただし教育資金贈与とは異なり、贈与者が亡くなった時点で、使い切れなかった分については相続税が課税されてしまうため、節税対策としてはあまり効果がありません。