【韓国3ケ月経過後の相続放棄】特別限定承認制度 |大阪 はる司法書士事務所
韓国民法では、相続人が、相続の開始を知った日から3か月以内に相続放棄または限定承認をしなかったときは、単純承認したものとみなされます(第1026条2号)。
これは、日本民法でも同じで、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続放棄または限定承認をしなければ、単純承認をしたものとみなされます。しかし、日本の判例では、相続開始を知った時から3か月が経過していても、亡くなられた方(被相続人)に相続財産が全く存在しないと信じたことに相当な理由がある場合は、相続財産の一部または全部を知った時から3か月以内であれば相続放棄ができるとされています。家庭裁判所でも、3か月経過後の相続放棄に相当の理由がないと明らかに判断できる場合以外は相続放棄の申述を受理する取り扱いがされています。
では、亡くなられた方が韓国籍の場合、相続人が相続開始を知った日から3か月が経過した後も、相続人に相続財産が全くないと信じるに相当な理由があれば、相続放棄をすることはできるのでしょうか。
この点、韓国の判例は相続開始を知った日を「相続開始の原因となった事実の発生を知り、かつ自己が相続人になったことを知った日」と解し、起算点についても「相続財産を知った日」でも「相続財産の有無を知った日」でもないとして、3か月経過後の相続放棄については認めていません。
そのため、3か月経過後に借金が発覚した場合でも、相当な理由の有無にかかわらず、相続放棄をすることはできないのです。
しかし、これでは何の落ち度もなく、負債の存在を知らなかった方に、酷な結果となります。
そこで、韓国民法では、3ヶ月経過後の相続放棄を認めない代わりに、特別限定承認制度を置いて、3ヶ月経過後の限定承認を認めています。
特別限定承認制度
韓国民法では、「相続人は、相続開始を知った日から3箇月内に単純承認や限定承認または放棄ができ」(第1019条第1項)、3か月以内に相続放棄又は限定承認をしなかったときは単純承認したものとみなされる(第1026条)。 ただし、上記3か月の期間を過ぎた場合でも、同条第3項で「第1項の規定にかかわらず相続人は、相続債務が相続財産を超過する事実を重大な過失なしに第1項の期間内に知らずに単純承認(第1026条第1号及び第2号の規定によって単純承認したとみなす場合を含む)をした場合にはその事実が分かった日から3月内に限定承認ができる」とされています。これを特別限定承認制度といいます。
第1026条
第1号 相続人が相続財産に対する処分行為をしたとき
第2号 相続人が相続の開始を知った日から3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかったとき
日本民法と韓国民法の違い
3ケ月経過後に借金が発覚した場合
相続開始を知った日から3ケ月経過後に被相続人に借金があったことが発覚した場合、日本民法と韓国民法でどのような違いがあるのでしょうか。
【日本民法】
下記の要件を全て満たせば相続放棄をすることができます。
①被相続人に相続財産が全くないと信じていたこと
②相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があること
③相続財産が全くないと信じたことに相当な理由があること
【韓国民法】
相続放棄はできませんが、相続債務が相続財産を超過する事実を重大な過失なしに知らなかった場合は3か月経過後であっても限定承認をすることができる(特別限定承認)とされています。
相続開始により遺産を分割後に相続財産を超える負債が発覚した場合
日本籍の方と韓国籍の方とでは、被相続人に借金はないと誤信し、相続財産について遺産分割を行った後に、遺産を超える借金があったことが発覚した場合の取り扱いにどのような違いがあるのでしょうか。
【日本籍】
日本の判例は3か月経過後であっても一定の要件のもと相続放棄を認めています。
判例が一定の要件のもと3か月経過後の相続放棄を認めているのは、債権者には裁判で相続放棄の効力を争う機会が残されているからです。
つまり、家庭裁判所で3か月経過後の相続放棄が受理されたとしても、債権者は訴訟を提起して相続放棄の効力を争うことができるのです。
そして、上記の3要件(①被相続人に相続財産が全くないと信じていたこと、②相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があること、③相続財産が全くないと信じたことに相当な理由があること)を満たしていなければ、裁判で相続放棄の効力が否定されてしまうこともあるのです。
そこで、相続開始により遺産を分割後に相続財産を超える負債が発覚した場合ですが、相続開始時に負債を含めた相続財産の全容を知らなかったとしても、遺産の一部についてはその存在を認識したうえで、これを相続人間で分割している以上、上記①の「被相続人に相続財産が全くないと信じていたこと」という要件を満たさないことになりますので、裁判で争われれば、相続放棄の効力は否定される危険性があります。相続放棄の効力が否定されれば、負債全額を返済しなければならなくなります。
【韓国籍】
韓国民法では、遺産分割により相続を承認(単純承認)したときであっても、相続債務が相続財産を超過する事実を重大な過失なしに知らなかった場合は、3か月以内であれば特別限定承認を認めているため、例え、遺産を分割した後であっても、その遺産を超える負債が発覚すれば、特別限定承認を行い、プラスの財産の範囲内で負債を返済すればよいことになります。
相続財産を処分してしまった場合
被相続人の財産を処分してしまった場合の取り扱いはどうでしょうか【日本民法】
相続放棄前に価値のある相続財産を処分してしまった場合は、単純承認したとみなされますので、相続放棄をすることができなくなります(仮に家庭裁判所で相続放棄を受理されても、債権者が争えば相続放棄の効力が否定される可能性があります)。
相続放棄後に価値のある相続財産を処分した場合は、相続財産を「隠匿・消費」したものとみなされ、債権者が争えば、相続放棄の効力は否定される可能性があります。
つまり、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されたからといってそれは「一応の公証を意味するにとどまるもので、その前提要件である相続の放棄が有効か無効かの権利関係を終局的に確定するものではない」(最高裁昭和29年12月24日判決)ことから、債権者は訴訟上、相続放棄の効力を争うことができるというわけです。
【韓国民法】
韓国法でも相続放棄前に価値ある財産を処分してしまったときは、単純承認したとみなされるので相続放棄をすることはできませんが、相続債務が相続財産を超過する事実を重大な過失なしに知らずに行った場合は、その事実がわかった日から3か月以内であれば特別限定承認をすることができます。ただし、限定承認に際しては財産目録に処分した財産を記載する必要があります。
特別限定承認の管轄裁判所と必要書類
日本民法では限定承認は相続人全員(相続放棄をした者を除く)でしなければならないと規定されていますが、韓国民法では各相続人は、その相続分に応じて単独で限定承認を行うことができるとされています。
以前受任した案件でも、単独での限定承認を受理してもらったことがあります。
なお、相続人全員で限定承認を行う場合は、相続人の一人を相続財産管理人候補者とすることもできます。
管轄裁判所
在日韓国人の方が亡くなられた場合で、相続財産(負債も含む)が日本国内にあるときは、被相続人の最後の住所地を管轄する日本の家庭裁判所に限定承認の申述を行うことができます。
必要書類(第1順位の相続人が限定承認をする場合)
①限定承認の申述書
②被相続人の出生~死亡までの韓国の戸籍(除籍・家族関係登録簿)とその翻訳文
③被相続人の住民票の除票
④被相続人の出生~死亡までの連続した韓国戸籍がない場合は、外国人登録原票など
⑤申述人の基本証明書・家族関係証明書と翻訳文 申述人が帰化をしている場合は帰化の記載のある日本の戸籍と現在戸籍
⑥家庭裁判所のホームページには記載はありませんが、相続財産を証する書面(不動産であれば登記簿謄本と固定資産評価証明、預貯金であれば通帳のコピーと被相続人の死亡当時の残高証明、負債については債権者の督促状と被相続人の個人信用情報など)
⑦800円の収入印紙と予納郵券(裁判所によって異なるため、事前に確認が必要です)
特別限定承認の手続きの流れ
①相続人の調査と相続財産の調査
特別限定承認の依頼を受けると、当事務所では、相続人の調査と負債を含めて相続財産の調査を行います(1か月程度)。
特別限定承認は各相続人が単独で行えるため、家族関係証明書があれば被相続人と申述人との親子関係は証明できるので(申述人が2008年以前に帰化されている場合は除籍も必要)、被相続人の出生~死亡までの戸籍は不要なようにも思えますが、日本の家庭裁判所に特別限定承認の申述を行う場合は、日本の方式にそって手続きを行う必要があるため、被相続人の出生~死亡までの韓国戸籍(除籍謄本・家族関係登録簿)を取得し、翻訳文と一緒に提出しています。
【相続財産の調査】
不動産 | 名寄帳を取り寄せ、所有不動産があれば登記簿と固定資産評価証明を取得します。 |
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預貯金 | 相続人の方からの聞き取りで、該当の金融機関に口座の有無の照会をかけ、口座があれば、死亡日と現在の残高証明を交付してもらいます。 |
負債 | 実際に督促をしてきている債権者に直接、負債額および督促日についての聞き取りをし、負債額につき書面を交付してもらえる場合は、督促状と一緒に提出します。 その他の負債について、信用情報機関3社に情報開示請求をし、負債があれば、直接債権者に取引履歴を開示してもらい、それらの書類を提出します。 |
【申述書の作成】
申述書では、韓国法では特別限定承認制度が設けられていて、本件が特別限定承認制度を利用した申述であること、韓国民法では各相続人が単独で限定承認ができること、相続人全員で行う場合は、相続人全員でも限定承認ができ、その場合は相続人の中から相続財産管理人を選任できること、申述人は重大な過失なく相続債務が相続財産を超過していることを知らなかった事情などを、条文を提示しながら詳細に記載していきます。
②家庭裁判所へ限定承認の申述
必要書類がそろえば、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所で限定承認の手続きを行います。
③照会書が届く
家庭裁判所で書類をチェックし、書類の不備等がなければ1~2か月程度で申述人宛に限定承認の意思を確認するための照会書が届きます。 照会書の内容としては、被相続人の死亡を知ったのはいつか、相続人であることを知ったのはいつか、相続債務があることを知ったのはいつか、限定承認をしたのは本人の真意からのものであるか、また申述書に相続人の一人を相続財産管理人候補者として記載した場合は、相続財産管理人候補者になっているが間違いないかなどが記載されています。
④限定承認申述の受理と限定承認公告・催告
照会書を返送したら、1か月程度で、限定承認の受理通知書と、相続財産候補者には相続財産管理人選任の審判書が届きます。
限定承認が認められてから5日以内に限定承認をした旨および債権者・受遺者に期間内に債権の届出等をする旨を記載した官報公告(限定承認公告)を行い、催告書などを送ってきた知れたる債権者については個別に債権届出をする旨の通知(催告)を行います。
日本法では相続財産管理人が選任された場合は審判から10日以内に官報公告をする旨が規定されていますが、韓国民法にはそのような規定がなく、相続財産管理人が選任された場合も、限定承認が認められてから5日以内に官報公告をする必要があります。
なお、公告期間は日本法と同様2か月以上です。
⑤清算手続き
2か月の公告期間が満了すれば届出のあった債権者・受遺者に対し、清算手続きを行うことになります。 ただ、韓国の特別限定承認制度は、3か月経過後の相続放棄の代替措置であるため、プラス財産がない、あっても少額である、ないしは換価価値のないものであるケースがほとんどです。プラスの財産がない場合は、届出のあった債権者に対し、特別限定承認の趣旨を説明し、清算手続きをすべきプラスの財産がないことを理解してもらう必要があります。 韓国民法では特別限定承認をした場合、相続債務をどのように清算していくかについて明確に規定していません。そこで、通説では、相続財産全体について清算を行ったうえで、相続債務が残った場合は、各相続人は相続分に応じて債務を分割し、その分割された債務について、特別限定承認をしなかった相続人は、自らの財産で弁済し、特別限定承認をした相続人は、何ら弁済の責任は負わないと考えられています。
特別限定承認の費用
報酬(税込) | 実費 | |
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韓国籍の方の特別限定承認申述書の作成 |
7万円 |
申立費用:収入印紙800円・切手代 戸籍(戸籍 450円 除籍・原戸籍 750円 住民票 300円)韓国戸籍・家族関係証明書など(1通120円) 翻訳代として1万~2万円必要 官報公告費5万円程度・内容証明郵便代(2000円程度) |