具体的に相続財産を分けることを遺産分割と言います。

遺産分割とは、相続人が各相続分に応じて具体的に相続財産を分割することをいいます。遺産分割は、まず被相続人が遺言書を残している場合は、原則として、遺言内容に従って分割していくことになります。遺言書の指定通りに分割することを「指定分割」といいます。
遺言書がない場合や、遺言書があっても具体的な分割方法が指定されていない場合は、相続人全員の話し合いによって決めることになります。この話し合いを「遺産分割協議」といい、協議に従って分割することを「協議分割」といいます。
なお、法定相続分に従って分割することを「法定分割」といい、民法上、遺産分割の優先順位は①指定分割、②協議分割、③法定分割となっています。

遺言書がある場合の遺産分割(指定分割)

遺言書がある場合、原則として遺産は、遺言書の内容に従って分割されることになるため、遺産分割協議は不要のように思われます。しかし、遺言があっても、「財産の1/2を長男に相続させる」といったように割合の指定だけがある場合や、相続財産の一部についてだけのものだったりする場合は、具体的な遺産承継や、残余財産の承継について遺産分割の協議をする必要があります。また、全ての財産について具体的な分割の仕方が記載されている場合であっても、相続人全員が同意すれば、遺言の内容とは異なる遺産分割を行うことも可能です。

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遺産分割協議による分割(協議分割)

「誰が」「何を」相続するかを具体的に決める相続人全員による話し合いのことを遺産分割協議といいます。遺産分割協議には、相続人全員が参加する必要があり、相続人の一人でも欠いた協議は無効とされます。また、相続税の優遇措置の適用を受けるためには、協議の内容をまとめた遺産分割協議書を提出する必要があることから、相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに話し合いを終えておくのが理想と言えます。なお、相続人全員の合意があれば、相続財産を自由に分割することができます。

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遺産分割の方法

相続財産の分割方法としては①現物分割、②換価分割、③代償分割、④共有の4つの方法があります。

現物分割とは、不動産や預貯金など一つ一つの財産を現物のまま分割することをいいます。自宅以外の財産が多い場合に利用することができます。
相続財産の大半が、自宅という場合には、現物分割を除く、分割方法を検討していくことになります。
まず、換価分割とは、自宅を売却してお金に換え、それを相続人で分け合うというもので、各相続人の相続分に応じて公平な分割ができるという利点があります。ただ、自宅に居住していた家族は、住み慣れた家を失うことになること、および各相続人に譲渡所得税がかかるというデメリットがあります。
次に、代償分割とは、相続人の中の一人が自宅を相続し、その代わりに他の相続人に対し、各相続分に応じたお金を支払う方法のことで、自宅に居住していた家族は住み慣れた家に引き続き居住でき、他の相続人もその代償金を受け取ることができるので公平性が確保できるというメリットがあります。ただし、自宅を受け継ぐ人に、代償金を支払うだけの資力が必要となります。
最後に共有とは、自宅を相続人全員の共有とする方法のことですが、不動産を共有状態にしておくことは、後のトラブル発生の原因となりますので、お勧めできません。

不動産共有化のリスク

法定相続分に応じて不動産を相続人全員で共有すると、下記の様な不都合が生じる可能性があります。
法定相続分に応じて不動産を相続人全員で共有すると、下記の様な不都合が生じる可能性があります。

①共有者の一人に資金が必要となっても、その持ち分だけでは買い手がつかず、また不動産全体を売却したり、大幅に改築する場合には、共有者全員の同意が必要となります。
②共有者に相続(数次相続)が発生した場合には、さらに権利関係が複雑になります。
③相続税につき現金がない場合には、不動産を物納することも可能ではあるが、共有者間に争いがある不動産については物納できない可能性があります。

借金などのマイナス財産の遺産分割

遺産分割の対象となるのは、不動産や預貯金などのプラスの財産に限定されます。
借金などのマイナス財産は、遺産分割をすることなく、法定相続分に応じて当然に承継されることになります。そのため、相続人の中の一人が借金を引き受けるような遺産分割協議が成立しても、それは相続人相互の間では有効ですが、債権者に主張することはできません。
ただし、法定相続分とは異なる割合で借金を負担することに債権者が承諾すれば、債権者との間でも有効に成立しますので、この場合には、借金を引き受けない他の相続人は債権者との間で免責的債務引受契約証書を作成しておくようにします。

相続人相互の間では有効とはどういう意味か

例えば、相続人A,B,C(いずれも子ども)の間で、600万円の借金をAが引き継ぐ旨の協議が成立したとします。この協議内容は、債権者を拘束するものではありませんから、債権者は、相続人Aはもちろんのこと、B,Cに対しても、「600万円を返せ」という権利があります。そこで債権者はBに対し、600万円を支払うよう請求し、その請求に応じてBは600万円を支払いました。この場合、BはAに対し、いくら返せと請求できるでしょうか。
通常であれば、相続人A,B,Cは法定相続分に従い、それぞれ200万円ずつの借金を相続することになるので、BはAに対し、A法定相続分である200万円を返せ、という権利しかありません。これに対し、債務を承継「600万円の借金は相続人Aが引き継ぐ」旨の協議が成立している場合は、BはAに対し、借金の全額である600万円の返済を請求できることになります。これが相続人相互間では有効という意味です。

預金などの可分債権と遺産分割

従来、預貯金などの可分債権は遺産分割の対象とはならず、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されるとされてきましたが、平成28年12月19日、最高裁は「預貯金は遺産分割の対象となる」と判示、従来の見解を大きく転回させる判例変更を行いました。
これにより、預貯金は遺産分割が成立するまでは相続人全員の共有となり、一部の相続人が単独で預貯金の払い戻しを請求することは難しくなります。しかし、遺産分割が成立するまで預貯金が一切引きだせないとすると残された相続人に困難を強いることにもなりかねません。
そこで改正法では、遺産分割前であっても、葬儀費用や当面の生活費を引きだせる仕組みとして「預貯金の仮払い制度」を新設します。
仮払い制度を利用して引き出せる預貯金の額は、相続人一人につき「預貯金の額×1/3×当該相続人の法定相続分」が上限。直接、銀行の窓口で払い戻しを受けることができます。
また家庭裁判所の保全処分を利用する方法も検討されています。

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遺産から収益がある場合の取り扱い

遺産である賃貸マンションの家賃や、預金の利息、または株式の配当金など遺産から生ずる収益は、遺産分割協議の対象となるのでしょうか。
 この点、判例は、「遺産は、相続人が複数いるときは、相続開始から遺産分割までの間、相続人全員の共有の状態にあるのだから、その間に発生した賃料債権は遺産とは別個の財産というべきであって、各相続人がその相続分に応じてそれぞれ単独で取得するものであり、後にされた遺産分割の影響を受けない」と判断しています。 従って、相続開始から遺産分割までの間に家賃などの遺産から生じた収益は、遺産分割協議の対象とはならず、各相続人がその相続分に応じて取得することになります。