相続登記が義務化されます
従来、相続登記は義務ではなく、登記をするかどうかは相続人の方の判断に委ねられていました。
しかし、近年、所有者不明の土地の増加が大きな経済的損失をもたらすだけでなく、災害復興などの公共事業に支障をきたすなど深刻な社会問題となっています。
また登記が放置されている土地のなかには犯罪や倒壊の危険のある空家を抱える土地も少なくありません。
そこで所有者不明の土地や空家問題の抜本的な解決策の一つとして不動産登記法の改正により相続登記が義務化されることになりました。
相続登記が義務化されるのは2024年4月1日から。相続開始を知った日から3年以内に正当な理由なく相続登記を怠れば、10万円以下の過料の対象となります。
相続登記義務化のルールは以下の通りです。
ルール1:相続の開始を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない
土地や建物の相続を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないとされます。これを怠れば10万円以下の過料の対象となります。
ただし、①3年以内に登記申請できないことにつき正当な理由がある場合と、②3年以内に相続人申告登記を申請した場合には、過料の対象とはなりません。
ルール2:遺産分割から3年以内に相続登記の申請をしなければならない
相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で誰が不動産を相続するかを決定したときは、遺産分割協議の成立日から3年以内に、協議内容を反映した相続登記の申請をしなければならないとされています。これを怠れば10万円の過料の対象となります。
ケース別で考える相続登記の義務化
亡くなられた方が土地や建物といった不動産を所有していた場合、遺言があれば遺言の内容に従い、遺言がないときは、相続人全員の話し合いによって誰が不動産を相続するかを決めることになります。
例題では不動産を所有していたAさんが亡くなり、Aさんの相続人は妻Bさんと子Cさん、Dさんの3人。
3年以内に遺産分割協議が成立したとき
相続人全員の話し合い(遺産分割協議)でAさん所有の不動産はDさんが相続することになりました。
相続開始から3年以内に、遺産分割協議の内容を反映した相続登記(例題ではDさんを権利者とする相続登記)の申請を行います。
※相続開始から3年以内に相続人申告登記を申請していたときは、遺産分割協議の内容を反映した相続登記の申請は、遺産分割協議の成立から3年以内に伸長されます。
3年以内に遺産分割協議が成立しないとき
相続開始から3年以内に遺産分割協議を行うことが難しいときは、とりあえず相続の開始から3年以内に①相続人申告登記を申請するか、②法定相続分に応じて相続登記のいずれかを申請しておけば、過料をかせられることはありません。ただし、後日遺産分割協議が成立すれば、成立から3年以内に遺産分割協議の内容を反映した相続登記を申請する必要があります。
例題で法定相続分による相続登記を申請すると、妻Bさん持分2/4、子Cさん持分1/4,Dさん持分1/4で登記され、不動産の評価額(例題では1000万円)の4/1000の4万円を
登録免許税として支払うことになります。登記原因は「被相続人Aさんの死亡年月日 相続」となります。法定相続分による相続登記は、相続人のうちの一人からでも申請をすることができます。
その後、遺産分割協議が成立し、子Dさんが単独で取得することになると、遺産分割協議BさんとCさんの持分すべてをDさんに移転する登記を申請する必要があります。登記の目的は「A及びB持分全部移転」、登記原因は「遺産分割協議が成立した年月日 遺産分割」となり、移転した持分の評価額(例題では1000万円の3/4=750万円)の4/1000(例題では3万円)を登録免許税として支払うことになります。
遺産分割を原因とする相続登記では、持分を取得する者(例題ではDさん)を権利者、持分を失う者(例題ではAさんとCさん)を義務者として共同で申請する必要があります。
つまり、法定相続分による相続登記後に、遺産分割による相続登記を申請すると、登録免許税を2回支払う必要があり、遺産分割による相続登記には相続人全員の協力が必要となるため費用面での負担が多く、手続きも煩雑になってしまいます。
そこで、今回の改正では、遺産分割による相続登記を「更生登記」として取り扱うことで、登録免許税が不動産1個につき1000円とコストを抑えることができます。また権利者による単独申請も認められ、義務者の登記識別情報や印鑑証明書、委任状などの書類の添付も不要とされます。
相続人の一人が相続放棄をしたとき
被相続人Aさんの相続人のうち子Cさんが相続放棄をしたときは、他の相続人(Bさん、Dさん)はCさんの相続放棄を知った日から3年以内に、遺産分割協議が成立したときは遺産分割協議の内容を反映した相続登記を、3年以内に遺産分割協議の成立が見込めないときは、相続人申告登記もしくは、相続放棄後の割合による相続登記を申請する必要があります。
遺言により相続人が不動産を相続したとき
遺言があり、遺言の中で、「不動産を子Dに遺贈する」、もしくは「不動産を子Dに相続させる」と記載されていれば、相続人Dさんは、遺言により不動産の取得を知った日から3年以内」に遺贈の登記をする必要があります。
従来、遺贈の登記は、遺贈を受ける人(受遺者)を権利者とし、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者と、指定されていないときは、他の相続人全員を義務者として共同で申請する必要がありましたが、他の相続人が登記手続きに協力してくれない等の問題もあり、手続きが遅延する恐れがあります。そこで改正法では、受遺者の単独申請が認められ、手続きの簡略化が図られています。
なお、単独申請が可能となるのは受遺者が相続人である場合に限定され、相続人以外の人が受遺者となるときは、従来通り、遺言執行者もしくは相続人との共同申請となります。
相続人申告登記とは
相続開始から3年以内に、遺産分割協議を行うことが難しいときは、相続開始から3年以内に法務局に相続人であることを申し出れば、登記義務をはたしたとみなしてもらえます。
申し出を受けた法務局は、申し出をした人の氏名・住所等を職権で登記に付記します。これを「相続人申告登記」といい、2024年4月から運用がスタートする予定です。
登記簿をみるだけで相続人の氏名・住所の把握を容易にすることが狙いです。
【申し出をすることができる人】:相続人が複数いる場合でも、単独で申し出ができます。相続人の一人が他の相続人の分もまとめて代理申請することもできます。
【申し出に必要となる書類】:申出をする相続人自身が被相続人(所有権の登記名義人)の相続人であることが分かる戸籍謄本(被相続人の出生から死亡までの戸籍は不要)
過料が科せられるのはどんな場合?
①正当な理由なく、相続開始を知った日から3年以内に、相続登記もしくは相続人申告登記を申請しなかったとき
②正当な理由なく、遺産分割協議成立から3年以内に、相続登記を申請しなかったとき
正当な理由とは?
①数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース、
②遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース、③申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケース などが正当な理由と考えられています。
相続登記の申請義務を怠ったときは、10万円以下の過料が科せられます。 ただし、申請義務に違反したからといって、ただちに10万円の過料が科せられるわけではありません。事前に法務局から申請義務の履行を催告する通知が発せられ、これに応じて登記申請をしたときは、10万円の過料の対象とはならないとされています。
2024年4月1日までにすでに相続が発生している場合
2024年4月1日から相続登記が義務化されますが、それ以前に発生した相続については、施行日から3年以内に相続登記もしくは相続人申告登記の申請をすればよいとされています。
その他の不動産登記法の改正
住所変更等登記の申請が義務化されます
所有権登記名義人が氏名や住所を変更したときは、変更から2年以内に、変更登記を申請しなければなりません。
正当な理由なくこれを怠ると5万円以下の過料の対象となります。
住所変更登記の義務化は2026年4月頃施行予定です。なお、施行日前に住所等を変更していたときは、施行日から2年以内に変更登記を申請する必要があります。
職権で所有権登記名義人の住所を変更できるシステムの導入
住所変更登記の実効性を確保するため、法務局が職権で所有権登記名義人の住所を変更できるシステムも導入されます。
法務局が、住民基本台帳ネットワークを使って取得した情報をもとに、所有権登記名義人の住所や氏名を職権で変更するというもの。
ただし、事前に本人(所有権登記名義人)の同意が必要で、あらかじめ本人は法務居に対し、氏名・住所、生年月日等の「検索用情報」を提供する必要があります。
情報が提供されている登記名義人については、定期的に住民基本台帳ネットワークに照会をして、住所等の変更があったときは、法務局側から所有権登記名義人に対し、住所等の変更登記をすることについて確認を行い、その了解を得たときに、登記官が職権で変更の登記をするというもの。職権登記がされれば、住所変更登記の申請義務は履行済みとなります。
不動産登記簿に死亡を示す符号を表示する制度の創設
同じく住民基本台帳ネットワークなどから取得した死亡情報に基づき、所有権登記名義人の死亡が確認されたときは、不動産登記簿に死亡を示す符号を表示する制度も新設されます。
このほか、不動産登記簿の公示機能を強化する施策として、所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先、具体的には、国内における連絡先となった者の氏名・住所等が登記事項となります(2024年4月頃施行予定)。
所有不動産記録証明制度の新設
相続登記の申請の義務化に伴い、相続人において被相続人名義の不動産を把握しやすくすることで、相続登記の申請に当たっての当事者の手続的負担を軽減するとともに登記漏れを防止する観点から、法務局側で、被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度も新設されます。