相続争いを回避するには、遺言書の作成が必要です。
遺言とは、遺言者の最終の意思を伝えるものです。遺言書があれば、法定相続に優先するので、遺言の内容に沿って、遺産を承継することができます。また、相続争いが多発する遺産分割協議を省略できるので、相続手続きを円滑に進めることができます。
相続法の改正で自筆証書遺言が利用しやすくなります
相続法の改正により2019年1月13日から自筆証書遺言の方式の一部が緩和され、また2020年7月10日からは法務局が自筆証書遺言を保管する制度がスタートします。
これにより、従来よりも自筆証書遺言が利用しやすくなります。
遺言書作成のメリット
遺言書を作成する主なメリットとしては、下記の点があげられます。
①遺言者の意思に沿った遺産承継が可能となる。
②相続手続きをスムーズに行うことができる。
③相続トラブルを未然に防ぐことができる。
(1)遺言者の意思に沿った遺産承継が可能となる
相続が発生した場合、遺言がなければ法定相続にしたがって遺産の分割が行われます。しかし、遺言があれば法定相続に優先する為、特定の相続人に資産を残したり、遺贈という形で相続人以外の方に資産を残すことも可能となります。
(2)相続手続きをスムーズに行うことができる
遺言がない場合、相続財産の名義を変更するには、相続人全員が共同して遺産分割協議書を作成して添付書類として提出することが必要となります。遺言があってどの財産を誰に相続させるのか明確に記載しておけば遺産分割協議は必要なく名義変更手続を単独で行うことができます。また遺言執行者を指定しておけば預貯金の払い戻しも円滑に行うことができます。
(3)相続トラブルを未然に防ぐことができる
法的に有効な遺言書があれば、トラブルが多発する遺産分割協議を省略することができるので、無用な相続人間の争いを回避することができます。
遺言書の種類
遺言の方法は、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つの方法がよく利用されます。
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の内容、作成日時、氏名を全て自署し(ワープロ、パソコン作成は不可)押印する遺言で、紙とペンと印鑑さえあればすぐに書くことができる手軽さが魅力ですが、あくまでも法的な文書であるため厳しく書式が定められており、要件が一つでも欠ければ無効となります。また、死亡時には家庭裁判所において検認という手続きを受ける必要もあり、手軽に見えて、実はデメリットも多いのが自筆証書遺言です。
そのため、当事務所では、無効のおそれが少なく、かつ偽造や変造される危険性や紛失のおそれもない公正証書遺言をお勧めしています。
公正証書遺言とは公証役場で公証人と証人2人の面前で、遺言の文面を確認しながら作成するもの。自筆証書遺言と異なり検認が不要なので、死後すぐに遺言に従った遺産分割手続きを進めることができ、また遺言は公証役場で保管されるため紛失のおそれもありません。費用と手間がかかるのがマイナス要素ではありますが、遺言が無効となったり、紛失したりといったリスクが低いことから、多少の費用はかかっても遺産承継を確実なものとし、相続時の安全性を担保する意味でもお勧めです。なお、各遺言のメリット・デメリットについては下の表をご参照ください。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
---|---|---|---|
作成方法 | ・本人が遺言の全文・日付・氏名等を自筆で書き、押印する。別紙で財産目録を添付する場合は財産目録はワープロ書きでもよい。詳細はこちら ・用紙や筆記用具に定めはない。 ・封筒に入れる |
・公証役場で公証人に遺言内容を口述し、公証人が作成する | ・本人が遺言書に署名押印の後、遺言書を封じ、遺言書と同じ印鑑で封印する。 ・公証人の前で本人の遺言であること、本人の住所氏名を述べ、公証人が日付と本人が述べた内容を書く。 ・パソコン、代筆可。 |
場所 | 問わない | 公証役場 | 公証役場 |
証人 | 不要 | 2人以上 | 2人以上 |
署名押印 | 本人 | 本人・公証人・証人 | 本人・公証人・証人 |
検認手続 | 必要。ただし、2020年7月10日からスタートする自筆証書遺言の保管制度を利用した場合は不要。 | 不要 | 必要 |
メリット | ・好きなときに1人で書ける ・費用がかからない ・秘密が守れる ・何回でも書き直すことができる |
・原本が公証役場に保管されるので、紛失したり、書き換えられる心配がない ・無効になりにくい ・検認手続きが不要 |
・遺言があることを明確にしながら、遺言内容の秘密が守れる ・偽造や書き換えられることがない |
デメリット | ・遺言書を紛失したり、死後に発見されないおそれがある ・第三者によって変造・偽造されるおそれがある ・不備や内容がわかりにくいなど、無効となるおそれがある ・検認手続きが必要 |
・遺言書の存在と内容を秘密にしておけない ・手続が多少面倒 ・作成時に費用がかかる ・証人2人が必要 |
・不備や内容がわかりにくいなど、無効となるおそれがある ・作成に若干の費用と手間がかかる ・検認手続きが必要 ・証人2人が必要 |
遺言できる事項
遺言書は法的文書であるため、遺言としての法的効力が認められているのは財産関係や身分関係等に限られます。
例えば、自分の財産を相続人以外の誰にあげるか(遺贈・寄付)、相続人のうち誰に何をあげるか(相続分の指定・遺産分割方法の指定)、婚姻外の子どもの認知をする、残された未成年の子供の後見人を指定する、自分の葬儀の主催者や墓守りを誰に指定するか(祭祀承継者の指定)などが法的効力が認められた事項です。
遺言としての法的効力はありませんが、遺言の動機や心情、配分を定めた理由、残された家族対する想いや希望を書き記すことは、感情面での対立を緩和させ、相続紛争を予防する効果が認められています。このメッセージを付言事項といい、最近では付言事項の活用が重要視されています。
遺言できる事項 | |
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財産処分の指示 (遺贈・寄付など) |
誰にどのような財産を相続させるかを指定でき、また相続人以外の第三者に財産を譲り渡すこと(遺贈)や、財団法人の設立などの寄付行為、信託の設定などをすることができる。 |
相続分の指定・遺産分割の指定 | 法定相続分とは異なる各相続人の相続分を指定できる。 相続分の指定:「相続人○○、△△、××の相続分を各1/3ずつにする」や「相続人甲に遺産の70%、相続人乙に30%を与える」など、相続財産全体に対する割合で指定がなされる。なお、遺言によって指定された相続分を「指定相続分」という。 遺産分割の指定:「甲不動産を売却して、その売却金を1/2ずつ取得するものとする」といった遺産の分割方法を指定するだけでなく、「甲不動産を相続人Aに、預貯金を相続人Bに相続させる」という特定の財産を特定の相続人に処分するのかを指定することも含まれる。 |
遺産分割の禁止 | 相続開始から最長5年以内であれば、財産の分割を禁止することができる。 |
推定相続人の廃除 又は廃除の取消し |
虐待や侮辱などの理由で財産を相続させたくない場合は、その相続人(兄弟姉妹を除く)を遺言によって廃除することができる(手続きを生前に行うことも可能)。廃除が認められるためには、家庭裁判所の審判もしくは調停を申立てる必要があり、遺言で廃除をする場合はその手続きを遺言執行者が行う。また、生前に認められた廃除の効果を遺言によって取り消すこともできる。 |
子の認知 | 婚姻外で生まれた子どもを遺言によって認知することができる。遺言により認知を行う場合は、遺言執行者の指定が必要。 |
未成年後見人、 未成年後見監督人の指定 |
遺言者の子が未成年であり、かつ遺言者以外に親権を行使する者がいない場合は、その子の生活や財産管理を委託する後見人および後見監督人の指定をすることができる。 |
遺言の執行に関すること | 遺言の内容を実行させるための遺言執行者を指定することができる。
・遺言執行者の指定又は指定の委託 ・遺言執行者の職務内容の指定 |
相続人の担保責任 | 相続人の担保責任とは、具体的に遺産分割で財産を取得したものの、その財産が他人物であったり、数量不足であったり、他人の権利が付着していたり、隠れた瑕疵があったりしたような場合に、その相続財産を取得した相続人を保護するため、他の相続人に対して、損害賠償請求や解除を求めることができるというもの。他の相続人は相続分に応じて、その責任(担保責任)を負うのが原則だが、遺言によって特定の相続人の担保責任を免除したり、減免したりすることができ、また加重することもできるとされている。 |
遺留分減殺請求方法の 指定 |
遺留分減殺請求は、①遺贈→②死因贈与→③贈与の順に減殺され、遺贈についてはそれぞれの目的の価額の割合に応じて減殺されることが規定されている。この順序については遺言をもってしても変更することはできないが、遺贈についてのみ、遺言で減殺方法を指定することができる。減殺方法の指定の仕方としては、減殺すべき金額を遺贈ごとに指定したり、各遺贈に対する減殺の順番を指定したりすることが考えられる。 |
その他 | ・祭祀承継者の指定 ・遺言の取消 ・生命保険金の受取人の指定・変更 |
遺言と遺留分
兄弟姉妹以外の相続人には、相続財産の一定割合を取得する権利が認められています。これを「遺留分」といいます。遺留分を侵害する遺言も有効ですが、遺留分減殺請求がなされると、その限度で効力を失うことになりますので、遺留分に配慮した遺言を作成した方が無難と言えます、。
遺言書がある場合の相続手続き
遺言は法定相続に優先するため、遺言書があれば、遺産分割協議を省略でき、相続に関する手続きを簡略化させることができます。ただし、公正証書遺言以外で作成された遺言書については、家庭裁判所による検認手続きが必要となります。
遺言書検認の手続き
公正証書遺言、及び法務局野保管制度を利用した自筆証書遺言以外の場合には、遺言書を保管していた人や、遺言書を発見した相続人が、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に遺言書を提出して、開封および検認をしてもらう必要があり、これを怠ると5万円以下の過料に処せられます。
また、検認の済んでいない遺言書では相続登記や預貯金等の名義変更などの手続きが行えませんので、注意が必要です。
遺言執行者
遺言執行者とは、遺言の内容を具体的に実現する者を指し、遺言書の内容・趣旨に沿って、相続財産を管理し名義変更など必要となる一切の手続きを行います。
遺言を作成する場合には、遺言の中で遺言執行者を定めておくことが望ましいと言えます。遺言の中には認知や、推定相続人の廃除など遺言執行者でなければ執行できない事項もあり、また遺贈や信託の設定、祭祀承継者の指定、生命保険受取人の指定・変更などは相続人でも執行行為を行うことができますが、手続きが煩雑な上、遺言が相続人間で利益が対立する内容であったり、相続人同士が疎遠な場合には相続人全員の協力を得ることが難しく、手続き自体が円滑に進まなくなってしまう可能性も否定できません。
この点、遺言執行者を指定しておけば、遺言執行者が相続人の代理人として手続きを行うことができるので、手続きがスムーズに進み、かつ相続人間の紛争を緩和する効果も期待できます。未成年者や破産者以外であれば、相続人でも遺言執行者となれますが、迅速な執行の実現や執行妨害の防止等の観点から法律的な知識を有する弁護士や司法書士などに依頼をするのがよいでしょう。