数次相続の解決事例②相続財産管理人と相続人の共有不動産の売却

相談内容

17年前に亡くなられたお父さん名義の土地について、相続登記をしないまま放置していたところ、相続人であるお兄さんが亡くなられたという数次相続の案件。第1相続の相続人はお子さん2人(兄と妹)。お兄さんは未婚であったため、第2相続では妹さんのみが相続人となりますが、その唯一の相続人である妹さんが相続放棄をしたため、お兄さんの債権者の申立てにより相続財産管理人が選任され、任意売却のため、相続登記と売買による所有権移転登記の依頼を受けました。

相続関係

相続登記と相続財産への氏名変更登記

通常の数次相続であれば、妹さんがお父さん(第1相続)の相続人としてだけでなく、お兄さん(第2相続)の相続人として遺産分割協議を行い、お父さんから直接、妹さんに所有権の名義を変更することが可能ですが、第2相続を放棄している以上、お兄さんの相続人として遺産分割協議を行うことは、相続財産の処分行為にあたるため、することはできません。
そこで、法定相続に従い、妹さんと、亡きお兄さん(ここでは仮にAとします)の共有名義で相続登記を行います。
そのあとで、亡きお兄さんから亡A相続財産へ所有権登記名義人の氏名変更登記を申請します。
相続財産管理人は、相続人がいないか、相続人全員が相続放棄をするなど相続人が不存在の場合に選任されるため、相続人と相続財産の共有名義の登記に違和感を覚えてしまいますが、数次相続において、第2、第3といった中間の相続を放棄するケースも少なくはないことから、相続人と相続財産の共有名義の登記も珍しくはないそうです。

今回の事案では、土地の名義人であるお父さんの最後の住所地を証明する住民票の除票や除籍の附票が廃棄処分となっていたため、所有権登記名義人と被相続人の同一性を証明することができません。このような場合、市区町村が発行する「不在籍証明」や「不在住証明書」、あるいは不動産の権利証や、相続人全員による上申書を添付すれば登記は受理されることから、今回は市区町村発行の廃棄証明書と上申書を添付して提出することにしました。
なお、上申書には相続人全員の署名押印が必要となるため、ここに相続財産管理人が含まれるかが悩ましく、相続財産管理人が亡Aの相続財産の法定代理人としての地位にあることに鑑み、妹さんだけでなく相続財産管理人からも署名押印をもらい、法務局に提出しました。相続登記についての委任状も、保存行為としてとらえれば妹さんからの委任状だけで足りますが、既述した通り相続財産管理人が相続財産についての法定代理人としての地位を有することを考慮し、相続財産管理人からも委任状をもらって、登記申請をしました。
補正もなく、無事に登記は完了しましたが、相続登記に相続財産管理人の委任状があったため、登記識別情報が妹さんと亡きお兄さん宛に2通発行されました。

任意売却による所有権移転登記

相続財産管理人が相続財産を売却することは権限外の行為となるため、売却に先立ち、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
相続財産を売り主(登記義務者)とする所有権移転登記の申請には、家庭裁判所の許可審判書と、相続財産管理人の資格を証する相続財産管理人選任審判書、印鑑証明書が必要となります。登記識別情報の提出は不要ですが、今回は発行されたので、添付して申請しました。なお相続財産管理人の印鑑証明書は、原則としては相続財産管理人個人の印鑑証明書が必要ですが、裁判所書記官が作成した印鑑証明書を提出しても却下まではされないようです。ちなみに今回は書記官作成の印鑑証明書を添付しましたが、補正等はありませんでした。