任意後見

任意後見は本人に判断能力があるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ、信頼できる人(任意後見人)との間で財産管理の在り方や、医療や介護などの手配についての取り決めをする契約のことで、本人の意思により支援内容や後見人を決定できる点で、自己決定の尊重に適合した制度であるといえます。

任意後見契約

任意後見契約を締結するには、本人に意思能力が必要となります。この意思能力については、一般に「補助」(事理を弁識する能力が不十分な場合)に該当する程度の能力が必要であるといわれています。意思能力がない状態で締結された任意後見契約は無効となります。
また、任意後見契約は、将来の紛争を予防するため、公正証書で作成することが義務付けられています。

任意後見契約の必要書類と作成費用

任意後見契約を締結するには、本人と任意後見受任者が公証役場に行き、公正証書を作成してもらう必要があります。公証役場に行くのが困難な場合は、公証人に自宅や病院等に来てもらうことができますが、この場合は旅費・日当として5500円が加算されます。
任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人から登記所へ任意後見契約の登記の嘱託がされるので、公正証書作成費に加え、登記にかかる費用の支払いも必要となります。

必要書類

本人に関するもの戸籍謄本
住民票
印鑑証明書
実印
本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
任意後見受任者に関するもの住民票
印鑑証明書
実印
本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
その他診断書や財産目録、不動産の登記簿謄本などが必要となる場合があります。

作成費用

公証役場の手数料1契約につき1万1000円
※証書の枚数が4枚を超えるときは、1枚につき250円が加算されます。
※正本謄本の作成手数料:1枚250円×枚数
後見登記に関する費用登記嘱託料1400円
印紙代2600円
郵送切手代など

任意後見契約の内容

任意後見契約は、財産管理や療養看護に関する事務について任意後見人に代理権を与える契約であり、判断能力が低下したときは、契約によって与えられた代理権の範囲内で、任意後見人が本人に代わって、法律行為を行うことになります。具体的に任意後見人に依頼できる事項としては下記のものがあります。

財産管理に関する事項

  1. 不動産や重要な動産などの財産管理、保存、処分
  2. 銀行や保険会社など金融機関との取引
  3. 年金や障害手帳など定期的な収入の管理
  4. 土地や貸家の賃料収入の管理
  5. 住宅ローンや家賃の支払など定期的な支出の管理
  6. 保険や公共料金などの定期的な支出の管理
  7. 日常的な生活費の送金や生活必需品などの購入、支払
  8. 不動産に関する権利証や通帳といった書類や実印の保管、各種行政上の申請の手続き

療養看護に関する事項

  1. 保険サービスや福祉サービス利用契約の締結や管理、要介護認定の手続き、施設入所契約など、福祉サービス利用に関する諸手続
  2. 本人の住居の購入や賃借、家屋の増改築などに関すること
  3. 医療サービス契約や入院に関する諸手続き

その他

  1. 住民票、戸籍謄本などの証明書の請求
  2. 登記・登録の申請
  3. 税金の申告、納付、還付請求、還付金の領収
  4. 訴訟行為(弁護士が任意後見人の場合、司法書士については訴額140万円以下まで)など

居住用不動産の売却

法定後見人が本人の居住用不動産を売却するには、後見監督人(後見監督人が就任している場合)と家庭裁判所の許可が必要です。これに対し、任意後見では、任意後見契約において居住用不動産の売却について任意後見人に代理権が付与されている場合は、任意後見監督人や家庭裁判所の許可は不要となります。これは本人が自らの意思で居住用不動産の処分権限を任意後見人に与えている以上、家庭裁判所の許可という制約を加える必要はないと考えられているからです。
ただし、権限濫用の危険が全くないとは言い切れないことから、任意後見契約において、居住用不動産の処分については任意後見監督人の同意を要する旨を定めておくのが無難です。

取消権

任意後見人には、法定後見制度で認められている固有の取消権は認められていないことから、本人が財産を処分したり、悪徳商法などの不利益な契約を締結してしまった場合には対処することができません。そこで、任意後見契約の代理権目録にあらかじめ「物品の購入(契約の変更・解除を含む)」と記載しておけば、任意後見人が詐欺取消しや、錯誤無効、クーリングオフ等の主張をすることが可能となります。

任意後見の開始時期

任意後見が開始するのは、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されたときです。
つまり、本人の判断能力に問題が生じない場合は、任意後見は開始されないことになります。

任意後見監督人の選任申立

家庭裁判所は任意後見契約が登記されている場合において、本人が精神上の障がいにより判断能力が不十分な状況にある場合に、任意後見監督人を選任することができます。

申立先本人の住所地の家庭裁判所
申立てができる人本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者
※本人以外が申立てをするときは、本人が意思を表示できる限り、本人の同意が必要。
申立に必要な書類申立書
本人の戸籍謄本
任意後見契約公正証書の写し
本人の成年後見等に関する登記事項証明書
本人の診断書
本人の財産に関する資料(不動産登記事項証明書,通帳の写し,残高証明書等)
任意後見監督人の候補者がある場合はその住民票(法人の場合は商業登記簿謄本)
申立費用収入印紙800円分+郵便切手代
登記手数料 収入印紙1400円分