【お寺の相続 解決事例】旧宗教法人からの権利承継登記

概略

宗教法人所有の不動産の登記簿上の住所が、現在の主たる事務所の所在地と異なることから、住所変更登記を申請しようと法務局へ事前相談したところ、住所変更登記ではなく権利承継登記が必要といわれた事案です。


問題

当該宗教法人所有の不動産の登記簿上の住所と、現在の主たる事務所とが異なるため、閉鎖登記簿謄本を取得し調べたところ、登記簿上の住所で、登録されていたことはなく、錯誤があったと思われ、権利証も当時の納税通知も既に紛失されていたことから、上申書で対応できないか、法務局に事前相談を行ったところ、現行宗教法人法施行前の昭和26年4月3日以前に登記されたものなので、住所変更登記ではなく、旧宗教法人から新宗教法人への権利承継登記をしなければならいとの回答がきました。

「権利承継登記?なんやそれ??」聞いたこともない登記が必要と言われても、とりあえず「必要書類は何になりますか?」と尋ねるも、「そっちで調べて」となんとも素っ気ない。

手始めに権利承継登記でネット検索をすると、都道府県が公開するホームページに「承継証明」の発行についての記載が散見されました。そこで、承継証明で検索すると、どうやら、権利承継登記に必要な書類となる旧宗教法人から新宗教法人へ権利が承継された証明書を都道府県が発行してくるらしいです。これは便利と、早速大阪府に問い合わせをしたところ、「大阪府ではそのような証明の発行はしていない」とのまさかの回答。「その代わり、大阪府公文書館をご案内することになっています」と電話番号を教えてもらったのはいいのですが、「電話して何聞けばいいんや?」。

気を取り直して、ネット検索すること小一時間。暗中模索に情報をかき集め、モヤっとではあるが問題の輪郭が見えてきました。さらに寄せ集めた情報で細部を補強しながら、なんとか宗教法人の成り立ちがわかってきました。

宗教法人の成り立ち

なんでも、宗教法人は、宗教団体→宗教団体法(昭和14年4月7日法律第77号)による宗教団体→宗教法人令(昭和20年12月27日勅令第719号)による宗教法人(旧宗教法人)→宗教法人法(昭和26年4月3日施行)による現 宗教法人との変遷を辿ってきたとのこと。

本件は、明治時代に登記されていることから、登記簿上の所有登記名義人は、宗教団体法以前の宗教団体ということになり、現 宗教法人に所有権を移転するには、宗教団体法以前の宗教団体から、宗教団体法による宗教団体、宗教団体法による宗教団体から宗教法人令の宗教法人(旧宗教法人)を経て、現宗教法人へ権利が承継されたことを証明する必要がある、ということになります。

権利承継登記の必要書類

具体的には、宗教団体法による宗教団体時代の閉鎖登記簿謄本、宗教法人令による宗教法人(旧宗教法人)時代の登記簿謄本、宗教法人法による宗教法人(現 宗教法人)の閉鎖登記簿謄本・登記事項証明書となりますが、ここで注意したいのが、宗教団体法による宗教団体時代の閉鎖登記簿謄本には「設立認可の年月日に、「昭和17年3月○日」という記載があること、宗教法人令による宗教法人(旧宗教法人)の閉鎖登記簿謄本には、その予備欄に「宗教法人法附則第○項の規定により宗教法人○○を設立したので、昭和○年○月○日閉鎖する」との記載があることが必要と考えられています。

本件の依頼者の寺院の閉鎖登記簿謄本にも設立認可の年月日として「昭和17年3月31日」という記載があり、その備考欄には「宗教法人令施行規則附則第2項により神社寺院協会登記●第2冊の1丁へ移す」と記載されており、昭和21年12月26日付の閉鎖登記簿謄本(旧宗教法人の閉鎖登記簿謄本)の備考欄には「宗教法人令施行規則附則第2項により」移記されていることが記されていました。

宗教法人令附則第2項には「宗教法人令附則第二項ニ掲グル教派、宗派、教団、寺院及教会ニ付教派登記簿、宗派登記簿、教団登記簿、寺院登記簿及教会登記簿ニ登記ヲ為シタル事項又ハ本令ニ依リ登記スベキ事項ニ関シ本令施行後最初ニ登記ヲ為シタルトキハ登記官吏ハ職権ヲ以テ其ノ登記簿ノ登記ヲ教派宗派教団登記簿又ハ寺院教会登記簿ニ移スベシ」とあることから、昭和21年12月26日付の閉鎖登記簿謄本は宗教法人令による宗教法人、すなわち旧宗教法人の閉鎖登記簿となり、上記2つの閉鎖登記簿謄本より、宗教団体法による宗教団体から宗教法人令による宗教法人へと権利が承継されてきたことが証明できます。

ただ、昭和21年12月26日付の閉鎖登記簿謄本の備考欄には、「宗教法人法附則第○項の規定により宗教法人○○を設立したので、昭和○年○月○日閉鎖する」との記載はなく、宗教法人法による現 宗教法人への権利承継に疑義が生じてしまいます。

なんでも、法務局の担当者によれば、この当時の閉鎖登記簿謄本には、宗教法人令の宗教法人から宗教法人法の宗教法人へ移行したことがわかるような予備欄の記載がないものがほとんどであるとのこと。そこで、宗教法人令の宗教法人(旧宗教法人)から宗教法人法の宗教法人(現 宗教法人)へ権利承継がなされたことを証する書面として、宗教法人令の宗教法人から宗教法人法の宗教法人へ移行する際に作成した寺院規則を添付することにしました。

宗教法人法附則第5項には「旧宗教法人は、この法律中の宗教法人の設立に関する規定(設立に関する罰則の規定を含む。)に従い、規則を作成し、その規則について所轄庁の認証を受け、設立の登記をすることに因つて、この法律の規定による宗教法人(以下「新宗教法人」という。)となることができる。」と規定されており、当該宗教法人においても、昭和28年9月1日付で大阪府の認証を受けた規則が作成されており、これにより、旧宗教法人である宗教法人と宗教法人法の現 宗教法人との同一性は担保されると考えたからです。

問題は宗教団体法以前の宗教団体と、宗教団体法の宗教団体との同一性についてですが、これについては昭和17年3月10日付の寺院規則が存在しました。 かかる規則には「右寺院宗教団体法施行の際寺院明細帳に登録ありたる寺院にあり別紙寺院規則を定め認可をいただきたく申請しました」とする規則認可申請書が添付されています。

また、大阪府公文書館に所蔵されていた寺院台帳(最初に教えられた電話番号は昔昔の寺院台帳が保管されているか聞くためだったのだとようやく合点がいく。)には、登記簿上の住所が記載された当該宗教団体の名称等の記載があり、上記規則の記載に従えば、寺院明細帳に記載された登記簿上の住所を主たる事務所とする宗教団体法以前の宗教団体が、寺院宗教団体法施行により規則を定めたことになり、ここから、宗教団体法以前の宗教団体から宗教団体法による宗教団体へ権利承継がなされたことがわかります。

以上により、登記団体(宗教団体法以前の宗教団体)が、宗教団体法による宗教団体、宗教法人令による宗教法人(旧宗教法人)を経て、宗教法人法による現 宗教法人へ権利承継されたことの一応の沿革がついたことから、法務局へ再度、確認したところ、旧宗教法人の閉鎖登記簿謄本の予備欄に「宗教法人法附則第○項の規定により宗教法人○○を設立したので、昭和○年○月○日閉鎖する」との記載がないことへの若干の憂慮から、旧宗教法人から現宗教法人へ権利承継したことに相違ない旨の上申をつけることで、添付書類の問題はクリアになりました。

申請書作成

とはいえ、申請書の記載については、不動産登記関連の書籍を調べても記載そのものがなく、唯一、記載がありそうな書籍を発見(タイトルは「不動産登記記載例集」)し、早速購入するも、登記完了後の登記事項の記載例が羅列されているだけで、なんとも心もとなく薄氷の上に咲き誇る感じではあるが、悠長に立ち止まっている時間的余裕もなく、申請書の作成を開始。

権利承継の登記は、所有権移転登記の一態様で、相続登記に類するものであること、登記の目的は当然 「所有権移転」、原因は「年月日宗教法人法附則第18項の権利承継」、年月日には宗教法人法の宗教法人の設立日が入ります。

相続登記に類するものということは、現宗教法人の単独申請(そりゃそうだ、旧宗教法人も現宗教法人なんやから)。登記権利者の記載はどうする?相続登記のように(被相続人○○)相続人△△に呼応するように、(被承継法人○○)承継法人○○ とかいったりするんやろうか、なんや変やな、どうなんやろ、悶々悶々と考えていても埒があきそうにないので、権利承継の登記が必要と言われてから、迷っては立ち返る参照点としてきた山形の熊谷司法書士事務所のホームページ、その名も「神社の登記小資料室」(というだけあって知識量が半端なく、とても勉強になります)。

ダメもとで熊谷司法書士におそるおそる電話をしてみたところ、とても丁寧に教えていただき、単に「所有者」だけの記載ですむことがわかり、申請書も無事作成終了(その節はありがとうございました)。
作成した申請書は下記の通りになります。

登記の目的 所有権移転
原因  年月日宗教法人法附則第18項の権利承継
所有者  主たる事務所
     宗教法人名称
     (会社法人等番号)
     代表役員 ○○

     添付情報
 登記原因証明情報 会社法人等番号 代理権限証書 

登録免許税については、宗教法人の場合、当該不動産が境内建物及び境内地であれば、大阪府発行の非課税証明を取得できれば、非課税となります。

ただ、非課税証明を取得するには所定の書類を揃えて提出する必要があり、証明書の発行までに1か月近くの時間を要するため、今回は、申請そのものはしましたが、発行までの時間を待つ余裕がなかったことから、宗教法人法第3条の規定は使わず、通常申請することになりました。

登録免許税は相続に類して評価額の4/1000となります(登記官が調べて教えてくれました)。
非常にニッチな登記申請でしたが、無事完了することができました。