【韓国籍の方の相続登記の解決事例】相続人の一人が海外に在住していたケース

相談内容

韓国籍の夫が亡くなり、夫所有の不動産について相続登記をしたいとの依頼を受けました。


相続人

韓国籍の夫Aさんの相続人は、韓国籍の妻Bさんと、お子さんCさんとDさんの3人で、Cさん、Dさんは帰化されていて、Cさんは海外赴任のため中国に在住されています。

相続人の一人が被相続人名義の不動産を相続する場合、相続人全員による遺産分割協議を行い、その内容を記載した遺産分割協議書に相続人全員が署名(もしくは記名)し、実印で押印の上、印鑑証明書を添付して、相続登記の申請を行うことになります。

海外赴任中の方でも、日本に住民票が残っていて、既に印鑑登録がされていれば、印鑑証明書は発行されますので、特別な手続きは必要ありませんが、今回のケースでは、Cさんは日本での住民登録を抹消していた(住民票を抜いていた)ため、実印+印鑑証明書に代わる書類の添付が必要となります。これがサイン証明と呼ばれるものです。

サイン証明とは、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続のために発給されるもので、外国籍の方の場合は現地の公証人、日本国籍の方の場合は、居住地にある日本大使館・日本領事館(在外公館)の領事の面前で署名及び拇印を押印することにより発行してもらうことができます。正式名称は「署名(及び拇印)証明書」といい、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。

サイン証明には、①署名や拇印を単独で証明するもの(単独タイプ)と、②署名(拇印)が必要な文書(例えば遺産分割協議書)と証明書を綴り合せて割り印を行うもの(綴り合わせタイプ/貼り付けタイプ)の2種類があります。相続登記の申請には遺産分割協議書と証明書を綴り合せた②の綴り合わせタイプ/貼り付けタイプが要求されることから、Cさんには、遺産分割協議証明書を事前に送付し、②の綴り合せタイプの署名及び拇印証明の取得と、念のため在留証明書の取得を依頼しました。

遺産分割協議書と遺産分割協議証明書

遺産分割協議書とは、相続人全員が同じ書面に署名(または記名)、押印するものですが、今回のケースのように、相続人が遠方に居住していたり、相続人の数が多い場合などは、1枚の書類(遺産分割協議書)を持ち回りで郵送していたのでは、時間がかかってしまったり、途中で紛失してしまう恐れもあります。そこでこのような場合には、相続人全員が話し合い(遺産分割協議)、合意した内容を、相続人ごとに書面にして、「このような分割内容になったことを証明する」ため、相続人それぞれが署名押印する「遺産分割協議証明書」を利用することがあります。

相続人全員分の遺産分割協議証明書が揃った時点で、遺産分割協議書と同じ効力が認められることから、相続登記の添付書類として遺産分割協議書に代わり、相続人全員分の遺産分割協議証明書を提出しても問題ありません。

問題点

今回のケースでは、相続登記のご依頼前に、韓国側に死亡の申告がされていたので、亡くなられたAさんの家族関係登録簿には「死亡」の記載がされていましたが、死亡日が住民票の除票に記載されている死亡日とは全く違うものでした。

そこで、相続人の方に話を聞いたところ、家族関係登録簿に記載された死亡年月日は入力ミスで、韓国領事館に、すぐに修正してくれるように依頼しても、本国での手続きが必要となることから修正されるまでに半年近くかかると言われ、銀行の解約手続きも家族関係登録簿に記載された死亡日が訂正されない限り進められなくて困っているとのことでした。

韓国籍の方の相続登記の手続きでは、韓国に死亡申告がされていない方の依頼を受けるケースも少なくありません。
この場合、韓国の戸籍(家族関係登録簿)には死亡の記載がされていませんが、日本の役所に提出した死亡届の写し(戸籍届書の記載事項証明書)を添付すれば、相続登記の申請を受け付けてもらうことができます。

ただ、今回のケースでは、韓国の戸籍に記載された死亡年月日(厳密にいえば死亡月と日)が、住民票の除票に記載された死亡年月日と一致しないため、被相続人Aさんと韓国戸籍に記載されたAさんの同一性に疑いが生じる可能性があるため、管轄の法務局に相談したところ、回答が得られるまでに少し時間を要しました。

日本籍の場合、戸籍の記載に誤りがあれば、それを修正してから相続登記を申請するのが筋であり、外国籍であってもその前提に代わりはないこと、ただ修正までに半年近くの時間がかかってしまうことを考慮していただき、今回は、死亡届の写しと上申書を提出すれば相続登記の申請は受け付けるとのことでした。

ここで問題となるのが、上申書には、上申書の真正を担保するため印鑑証明書の添付が要求されるところ、Cさんが取得した署名及び拇印証明は、遺産分割協議証明書に合綴された綴り合わせタイプのものだったので、本人の署名及び拇印であることを証明されるのは、遺産分割協議証明書内の署名と拇印に限定されるため、上申書に添付する印鑑証明書の代わりにはならないことです。

つまり、印鑑証明書の代わりにサイン証明を提出するケースで、上申書を添付する場合は、遺産分割協議書(遺産分割協議証明書)と合綴された綴り合わせタイプのサイン証明と、上申書用の単独タイプのサイン証明が別途必要になるのです。今回のケースでは、銀行の手続き用に単独タイプのサイン証明書も取得されていたことから、登記手続き用に単独タイプのサイン証明をお借りして、相続登記の申請を行いました。

相続登記では、印鑑証明書は原本還付といって、印鑑証明書のコピーに原本に相違ないことを記載して一緒に提出すれば、登記完了後に印鑑証明書の原本を返却してもらえることができます。

サイン証明書であっても原本還付請求が可能なことから、綴り合わせタイプ、単独タイプのいずれのサイン証明書も登記が完了すればお返しすることができるので、その後銀行手続き等に利用することができます。
今回も、お借りしたサイン証明の原本還付請求を行いましたので、登記完了後に、ご依頼者にご返却することができました。

はる司法書士事務所は韓国籍の方の相続手続きに力を入れています。

日本国籍の方の相続手続きと司法書士報酬は変わりません。お気軽にご相談ください。