【韓国籍の方の相続放棄の解決事例】被相続人の氏名・生年月日・住所・本籍がわからなかったケース
相談内容
15年以上前に離婚した妻の父親が亡くなり、未成年の息子が代襲相続人になったことから、相続放棄をしたいが、他の事務所に相談すると相続放棄の費用が20万円程度かかるといわれたため、当事務所へ父子でご相談にこられました。
未成年の息子Bさんは、父Aさんと母Cさんとの子であり、母CさんはAさんとの婚姻以前に韓国から日本へ帰化をされていますが、Cさんの父Dさんは韓国籍の方です。
AさんとCさんは、Bさんが幼少の頃に離婚し、以後BさんはAさんと一緒に暮らしています。
Cさんは5年ほど前に亡くなっており、Cさんの母親もそれ以前に亡くなっています。
被相続人となるDさんのお子さんにはCさんの他、長男Eさんがおり、長男Eさんと長女Cさんの代襲相続人BさんがDさんの相続人になります。
今回、Bさんのもとに、Dさんが亡くなったこと、Dさん所有のマンションについてBさんが相続人になることを知らせるEさんからの書面が届いたことから、初めて自身がDさんの相続人となったことを知ったわけですが、Bさんは祖父Dさんとは面識はなく、Dさんの氏名すら知らない状態です。
また、Aさんも、Dさんの日本での通称名の苗字こそ知ってはいるものの、下の名前は知らず、住んでいる場所や生年月日などDさんについての情報は何も知らないとのことでした。
さらに、Eさんからの書面には、Dさんが亡くなった日付の記載はあるものの、名前や住所は記載されておらず、Eさんの情報についてもCさんの兄と、携帯番号だけが記載されており、住所や名前の表示はありませんでした。
Aさんとしては、離婚時に、Eさんから執拗ないやがらせを受けたことから、直接Eさんと連絡をとることに激しい抵抗があるそうで、またBさんとしても、そのような経緯を聞いていたこと、および面識もない人から財産を譲り受ける気がないことから、相続放棄を強く希望されており、当事務所で相続放棄の手続きを進めることになりました。
被相続人の調査
相続放棄は、亡くなられた方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で手続きをする必要があることから、被相続人の住所がわかる住民票の除票を添付する必要があります。
また、被相続人とされる方が亡くなっていることを公的に証明する書面の添付が必須とされますので、相続放棄の申述には死亡の記載がある戸籍が要求されるわけです。
もっとも、韓国籍の方の場合、韓国側に死亡申告(届出)をしていないケースも多く、必ずしも「死亡の記載のある」戸籍の提出までは要求されません。
この場合は、他の書面、当事務所では住民票の除票と死亡届の写しを添付して提出しています。
今回のケースでは、祖父Dさんの住所はおろか、氏名・生年月日も不明なため、住民票をとることができません。
そこで、Dさんの住所等を教えてもらうため、Eさんからの書面に記載されていたEさんの携帯電話に連絡を試みましたが、事務所名を名乗った時点で電話を切られ、以後連絡が取れなくなってしまいました。
想定内とはいえ、なかなか悩ましい案件に焦りを覚えながらも、闘争心に火がついたのも事実です。
まずは、Aさんの戸籍を追いながら、離婚後のCさんの戸籍を遡って、Cさんの帰化前の氏名と父欄に記載されている被相続人Dさんの氏名を突き止めました。
同時にCさんの死亡年月日と死亡届の届け人、受理した役所の情報から、当該市役所にCさんの死亡届の写しを請求するとともに、Cさんの母親も、Cさんと同時期に帰化されており、婚姻前にCさんが母親の戸籍に入っていたことがあったので、その戸籍(原戸籍)の附票を請求しました。
Cさんの死亡届の写しを請求した趣旨は、Eさんからの書面によれば、Dさんは亡くなるまでずっと、Dさん所有のマンションにEさんと一緒に居住していたこと、Cさんの戸籍に死亡届の届出人と記載されている人物がEさんである可能性が高かったため、Eさんの住所を突き止めることで、Dさんの住所が判明するのではないかと思ったからです。
ただ、Cさんは既に帰化されていたため、日本国籍の方の死亡届の写しは、1ヶ月程度、市役所で保管された後、法務局へ管理が移転しているので市役所では交付できないこと、仮に法務局へ交付請求したとしても、原則非公開とされ、遺族年金の手続きなど法令で定められた使用目的以外では交付することができないとされているため、今回のような理由だけでは交付される可能性は低いと言われてしまいました。
なお、外国籍の方の死亡届の写しは届出のあった(通常は最後の住所地を管轄する)市役所で保管され、相続放棄を理由とする開示請求でも、交付してくれます(取扱いの違いに少し違和感があります)。
一方、Cさんの母親を筆頭者とする原戸籍の附票を請求した趣旨は、夫婦であれば一緒に暮らしている可能性が高いこと、Dさんの妻の住所からDさんの最後の住所を知る手がかりがあるのではないかと思ったからです。
ただ、こちらの方も、保存期間の5年が過ぎているため、交付してもらえませんでした。
次に、Aさんが、以前にDさんが○○市に住んでいた記憶があると話されていたので、氏名を記載し、Eさんの書面にあった死亡年月日を記載し、○○市に死亡届の写しを請求してみることにしました。このときDさんの生年月日や住所地がわからない理由および死亡届の写しが必要な理由を詳細に述べた書面をつけました。
残念ながら、○○市にはDさんの死亡届は出されていないとのことでした。
外国人登録原票の請求
韓国籍の方の本籍がわからない場合、外国人登録原票を取得すれば、韓国での本籍を知ることができます。
外国人登録原票は、かつて市区町村で作成されていた外国籍の住民に関する記録のことで、平成24年7月9日に外国人登録制度そのものの廃止により、現在は在留カードに切り替わり、住民基本台帳で管理されています。
つまり、平成24年7月9日以降に発生した相続については、被相続人の最後の住所地を証する書面として住民票の除票を取得することができるので、相続放棄については、住民票の除票を添付すれば足り、外国人登録原票までは取得する必要はないことになります。
ただし、住民票には国籍しか記載されておらず、韓国の戸籍や家族関係簿の取得には、「洞」または「里」(ともに日本でいう「町」)までの情報が要求されていることから、相続人の方が被相続人の韓国での本籍を知らない場合は、外国人登録原票を取得する必要があります。
外国人登録原票の取得が必要な場合
外国人登録原票の取得が必要な場面としては下記のものが挙げられます。
- 本籍がわからない場合
- 登記簿上の住所地と住民票の住所地が一致せず、住民票ではその沿革が付かない場合(相続登記の場合)
- 平成24年7月9日以前に亡くなっており、韓国の戸籍に死亡の記載がない場合
(相続登記の場合は、死亡届の写しなど他の公的文書の提出も必要) - 韓国の戸籍に相続人が記載されていない場合(韓国に出生申告(出生届)をしていない)など
外国人登録原票の記載事項
外国人登録原票には下記の事項が記載されています。
・氏名
・性別
・生年月日
・国籍
・職業
・旅券番号
・旅券発行年月日
・登録の年月日
・登録番号
・上陸許可年月日
・在留資格
・出生地
・国籍の属する国における住所または居所
・居住地
・世帯主の氏名
・世帯主の続柄
・勤務所または事務所の名称・所在地
・世帯主である場合、世帯を構成する者(世帯主の続柄、氏名、生年月日、国籍)
・本邦における父母・配偶者(氏名、生年月日、国籍)
・署名
・写真
・変更登録の内容
・訂正事項
※上記事項はいずれも平成24年7月9日以前に市区町村に登録の申請をしていた情報に限られます。
今回のケースの場合、被相続人Dさんの外国人登録原票を取得できれば、氏名、生年月日、韓国での本籍地だけでなく、住所地も判明しますので、直近(平成24年7月9日以前)の住所から最後の住所地を割り出せるかもしれません。
ただし、外国人登録原票はどなたでも開示請求を行えるものではなく、請求権者が限定されています。
亡くなられた方の外国人登録原票 | 存命中の方の外国人登録原票 | |
---|---|---|
請求権者 | ・同居親族 ・配偶者 ・直系卑属 ・直系尊属 ・兄弟姉妹 | ・本人のみ(未成年者の場合は法定代理人も) |
今回のケースでは、Dさんがお亡くなりになられていれば、Aさんは直系卑属にあたるため、開示請求を行うことはできますが、Dさんは登録制度が廃止された後に亡くなられているため、原則、死亡を証明する書面を添付する必要があります。
しかし、被相続人の氏名のみしかわからず、生年月日や住所はわかりません。まして死亡を証明する書面も添付できないため、当局で死亡が確認できなければ開示してもらうことができません。
また、死亡の事実にも疑義があったため、もしDさんが生存していれば、本人以外は外国人登録原票の開示請求はできないことになります。
そのため、帰化前のBさんの母Cさんと、Cさんのお母さんの外国人登録原票の開示請求をするとともに、Dさんの開示請求書と、生年月日や住所がわからない理由や、外国人登録原票が開示されない場合にAさんが被る不利益等を詳細に記載した上申書をつけて開示請求を行いました。
その結果、被相続人Dさんの外国人登録原票の一部の交付を受けることができ、
登録原票に最後に記載されている住所の地番を照会し、登記情報を検索したところ、所有者として被相続人Dさんが記載されていました。
そこで、登録原票記載の最後の住所をもとに住民票を請求したところ、Dさんの死亡が確認できました。
それと同時に、韓国の家族関係簿を取得したところ、Dさんの死亡申告がなされていたので、基本証明書と家族関係簿、住民票の除票と、Bさんの現在戸籍(Aさんが筆頭者となっているので、この戸籍をもってAさんがBさんの法定相続人にであることも証明できます)と、BさんがDさんの代襲相続人であることを証明する戸籍を添付して相続放棄の申述を行い、3週間後に無事受理通知が届き、業務終了となりました。
はる司法書士事務所では、今回のケースのように解決が難しい事例でも、通常の相続放棄の報酬と同一の金額で受任させていただいています。
業務の難易度によって報酬を加算することはありませんので、お気軽にご相談ください。
なお、手続きが増える場合、例えば特別代理人の選任が別途必要となる場合などは、その分報酬は加算されますのでご了承ください。その場合も事前にその旨お伝えさせていただきます。
日本国籍の方の相続手続きと司法書士報酬は変わりません。お気軽にご相談ください。