認知症対策と精神疾患をもつ子の生活保障のために家族信託を利用したケース

相談内容

相談者のAさん(70代)には、夫と、長女、長男、次女の3人のお子さんがいらっしゃいます。長女、長男は結婚して実家から離れて生活をしていますが、次女は統合失調症を罹患し、長期間入院しています。
Aさんには3000万円の預貯金があります。

今回は、認知症を発症するなど財産が管理できなくなった場合に備えて、預貯金3000万円を長女に管理してもらい、月々の生活費や医療費などを受けとれるようにするとともに、自分の死後は、預貯金の残金を3人の子どもに均等に与え、次女の取り分については、引き続き長女に管理してもらい、定期的に生活費や入院費用等を受け取れるように、家族信託を利用したいとの相談を受けました。


家族信託

今回のケースでは、委託者(受託者に財産を託し、運用・処分等を任せる人)はAさん、受託者(委託者に託された信託財産を管理し、信託の目的を達成するために必要な行為を行う人)はAさんの長女、受益者(信託財産から生じる利益を受け取る人)はAさんとなり(第1受益者)、Aさんの死後は、Aさんに代わって長女、長男、次女が受益者(第2受益者)となります。
信託財産は3000万円の預貯金になります。

家族信託解決事例

信託契約書

家族信託を利用するには、まず、委託者であるAさんと、受託者である長女が信託契約を取り結ぶ必要があります。
この信託契約書は、必ずしも公正証書で作成する必要はありませんが、信託される財産が高額となること、また長期的に契約の当事者を拘束するものであること、確実に財産の意向が行われる必要があることなどから、公正証書で作成することが推奨されています。
今回も、信託契約書は公正証書で作成しました。

信託口口座

次に、今回のケースでは信託財産が3000万円の預貯金とされたことから、信託財産を管理するための口座が必要となります。
信託財産は受託者個人の財産と明確に分離して管理される必要があることから、信託専用の口座であることが明示できる信託口口座を開設することが望ましいですが、銀行によってはなかなか信託口口座を開設してくれないこともあり、公正証書で契約書を作成する前に、信託財産を預ける予定の銀行に、信託口口座の開設は可能かを問い合わせ、可能であることを確認しました。

ただ、信託口口座の開設が可能であっても、契約書に不備があっては、信託口口座を開設できないことになります。そうならないためにも、公正証書で作成する前に、当該銀行の財務コンサルタント担当者とコンタクトをとり、信託口口座を開設したい旨を伝えたうえで、信託契約書の内容をチェックしてもらい、内容に問題がないことを確認してから公正証書を作成しました。

なお、信託口口座を開設できない場合は、受託者個人名義の口座で管理することになりますが、この場合、受託者が死亡したり、破産した場合、信託財産であっても受託者個人の財産とみなされて口座が凍結されるなどのリスクがあります。
そのため、預貯金を信託財産とする場合は、できる限り、信託口口座を開設して、そこで管理を行うのが良いと思います。

信託契約書の具体的な内容

信託契約書の作成に際しては下記の点に留意しました。

①Aさんが認知症を発症した場合に、毎月の生活費だけでなく、医療費、介護サービス利用料、老人ホーム等への入居費、成年後見人等の選任にかかる費用、葬儀・埋葬代なども、信託財産から捻出できるように、信託財産を利用できる用途を抽象的にならない程度に特定して、また幅広く項目を設定して記載しました。

②Aさんの死後は、長女、長男、次男が受益者となりますが、長女、長男については財産の管理は必要がないことから、長女・長男が受ける受益権(金銭を受け取る権利)と、次女が受け取る受益権(信託財産から給付を受ける権利)の内容に変化をもたせ、長女・長男については金銭を受け取った時点で受益権者としての資格を喪失させるとし、以後は次女のために信託が継続されるようにしました。

③次女が受益権者となった場合、統合失調症の症状が消失し、退院できる可能性も大いにあるため、住居費等も信託財産から給付できるようにしました。

④今回の信託は長期間に及ぶため、信託期間中に受託者が亡くなってしまう可能性も否定できません。新たに受託者が就任しない状態が1年間続けば、信託は終了してしまうため、そのようなことがないように、後継受託者も指定しておきました。

⑤Aさん、次女が亡くなった場合や法定事由が発生した場合などに今回の信託は終了し、残った預金は3人のお子さんが均等に受け取ることになりますが、信託終了前に亡くなってしまう可能性もあるため、亡くなった場合、その方が受け取るはずの残余財産を誰が引き継ぐかを具体的に指定しました。

また、Aさんの夫にも資産があることから、夫がAさんよりも先に亡くなった場合、Aさんが夫の資産を相続するとAさんの財産が増えることになるため、この財産についても、同様に3人の子どもに均等に与え、次女の取り分については長女に管理してもらい、定期的に生活費等を給付できるように家族信託を利用する必要があったため、本契約とは別に遺言書で家族信託の設定を行いました。

上記信託契約書と、遺言書(遺言信託を含む)を公証役場で作成してもらい、後日、信託契約書を銀行に持参し、信託口口座を開設してもらい、業務終了となりました。

はる司法書士事務所は家族信託に積極的に取り組んでいます。

信託契約書の作成に際しては、あらゆる事態を想定し、法的な正確さはもちろんのこと、銀行や公証役場と連絡を密に取りながら、実効性のある契約書の作成に取り組んでおります。 お気軽にご相談ください。