生前にできる遺留分の放棄

遺留分の放棄は、相続の放棄とは異なり被相続人の生前においても行うことができますが、家庭裁判所の許可が必要となります。当事者間での遺留分の放棄を認めると、被相続人や他の推定相続人により強制的に遺留分を放棄させられるおそれがあるため、放棄が本人の真意に基づくものであるか否か、相続人の利益を不当に害するものでないかどうかを家庭裁判所で審理し、許可を受けた場合に限り遺留分の放棄としての効果が認められます。
なお、相続開始後の放棄については家庭裁判所の許可は不要です。

家庭裁判所の許可の基準

家庭裁判所が遺留分放棄の許可をする基準は以下の3つです。これらの3つの基準を全て満たしている必要があります。

  1. 遺留分の放棄が申立人の自由な意思に基づくものであること
  2. 放棄の理由に合理性・必要性があること
    (例)農地や建物の所有者が多数人になることを防止したり、相続人の一部の者が会社や個人経営を継ぐ場合に、会社の株などの財産を後継者に相続させる場合等の理由が必要となります。
  3. 放棄の代償が支払われていること(例えば住宅資金の援助など、遺留分相当の対価を得ていて放棄しても公平であること)

遺留分放棄の効果

遺留分の放棄により、相続開始前は遺留分が消滅し、開始後は遺留分減殺請求を主張できないという効果が生じます。
もっとも、相続放棄とは異なり、遺留分を放棄しても相続人であることに変わりはなく、遺留分を侵害する内容の遺言が存在しない場合には、放棄した者は通常通り相続人として、遺産を相続することになります。
また被相続人に借金などのマイナス財産がある場合は、遺留分を放棄しても法定相続分に応じて債務を負担しなければなりません。
なお、共同相続人の1人がした遺留分の放棄は、他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません。

遺留分放棄の申立

遺留分の放棄を許可する審判の申立て

被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てを行います。

申立先 被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所
必要書類 ①申立書 
②申立人の戸籍謄本 
③被相続人の戸籍謄本 
④住民票(被相続人・申立人)
⑤財産目録 
⑥収入印紙(800円)+返信用の郵便切手
※事案によっては,このほかの資料の提出が必要となる場合があります。

家庭裁判所からの照会に回答する

申立から1、2週間程度で照会書が郵送されてくるので、照会書の各質問に回答を記入の上、裁判所へ返送します。 照会書に問題がある場合(申立人の遺留分放棄の意思表示の真意に疑いがある場合等)には、家庭裁判所から呼び出しを受け、そこで審問がなされます。

家庭裁判所での審理

家庭裁判所において放棄意思の真意性、撤回の可能性、生前贈与等の有無、その他放棄の動機の合意性、申立人と被相続人との親疎、扶養関係などについて調査が行われ、問題がなければ許可の審判が下されます。
※審判により下された認容・却下のいずれの判断に対しても、不服申立てをすることは出来ません。